なぜ「50ccスーパーカブ」は消えたのか

 2025年、ホンダは70年近くもの長きにわたり造り続けてきた、50cc版スーパーカブの生産を終了した。代わりに登場したのが、110ccという従来の倍以上の排気量を持つエンジンを載せた、兄貴分とも言える「スーパーカブ110」のデチューン版である「スーパーカブ110 Lite」だ。

 2025年11月から適用された、ユーロ5相当の非常に厳しい排出ガス規制に対応するためだ。なぜ従来の50ccのエンジンでは排ガス規制をクリアできないのか。排気量が小さいとダメなのか。開発責任者に詳しくお話を伺った。

フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):「ホンダの原点」とも言える50ccエンジン搭載のスーパーカブがなくなりました。50ccでは厳しい排ガス規制に対応できないから、と聞いています。小さなエンジンの排ガスはなぜ汚いのですか?エンジンが大きいと排ガスがきれいになるという理屈を教えてください。

本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部 ものづくり企画・開発部 運営マネジメント課 主幹 八木 崇さん(以下、八):多くの方が勘違いされているようなのですが、別にエンジンが「小さいから汚い」というわけではないんです。エンジンが大きかろうが小さかろうが、出てくる排ガスの質は、実はほとんど変わりません。

F:そうなんですか?

本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部 ものづくり企画・開発部 運営マネジメント課 主幹 八木 崇氏本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部 ものづくり企画・開発部 運営マネジメント課 主幹 八木 崇氏 Photo by A.T.

排ガスをきれいにするカギは「キャタライザー(触媒)の温度」

八:そうなんです。ちょうど良い機会だから詳しくお話します。

 バイクにはエンジンが載っています。そしてエンジンには必ず排気ガスを浄化するためのシステムが付いています。キャタライザー(触媒)と呼ばれるものです。ここを通ると、排ガスがある程度キレイになる。ですがこの装置は一定の温度以上にならないと活性化しない性質を持っています。つまり温度が上がらないと排ガスがキレイにならない。そして小さなエンジンは排気の熱量が少ない。だから触媒が活性化されない。排ガスを浄化するのが難しくなる。

F:小さいエンジンは熱くなりにくいのですか?エンジンが小さいと燃焼温度が低いのですか?

八:いえ。「排気量が小さいと燃焼温度が低い」というわけではありません。

 エンジンが小さいと触媒の温度が上がりにくいのは、触媒に届く排気の“熱量”が少ないからです。エンジンが小さいと、1回の燃焼で出る排ガスの量は少なくなります。排気温度が同じでも、流れてくるガスの量が少なければ、触媒を温める力は弱くなります。

 たとえばそうですね……凍えた手を暖めるのに、コップ1杯のお湯と、ヤカンにいっぱいのお湯では温まり方が違うでしょう?それと一緒です。

F:なるほど分かりやすい。しばらくスピードを上げて、つまりバンバンエンジンを回して負荷をかけて走ってエンジンの温度が上げれば、50ccでも何とかクリアできるかもしれませんね。