「怒っていいんだよ」社会現象になった『虎に翼』脚本家・吉田恵里香が不機嫌な女性を描く理由

 寅子は活発で忖度しない人だが、それは恵まれた家庭環境に起因している。寅子とは正反対なのがよね。貧しい農村に生まれ、東京に出てカフェーで働き、あるとき自分の体と引き換えに男性から大金をもらう。意に反したことをしてまで生きてきた忸怩(じくじ)たる思いを抱えるよねは、寅子以上に怒りを抱え、それを頻繁に表に出してきた。

「怒っていいと一口に言っても、それはやたらと不機嫌をまき散らしたり、理不尽に高いところから誰かを叱りつけたりすることではありません。よねを通して、怒りが他者を傷つけるための道具ではなく、社会を変えたり誰かを守ったりするものであることを伝えたいと思いました。

 世間は、声を上げる人を、メンタルが強いからだとか、しゃべりたいことを勝手にしゃべっているだけというように過小評価することもあります。でもよねだって別に怒りたくて怒ったり、不機嫌な顔をしたりしているわけではない。ただ、怒らなくてはいられないから立ちあがり声を上げているんです。それをスピンオフでは描きたいと思いました。よねなりの正しい怒り方を爆発させるシーンは気に入っています」

連ドラ以上に社会の歪に迫る

 寅子はどこまでいってもある種のエスタブリッシュメント側であるのに対して、よねは徹底して虐げられている民衆側、中流よりも低い層の暮らしを実感できる側に立つ。この2つの視点を持っていることが『虎に翼』の強みでもあったのだ。

『山田轟法律事務所』は戦後、よねが戦中まで働いていたカフェー燈台の跡地で法律相談所を開き、困っている人たちを分け隔てなく助けていく。

 スピンオフの会見でよねを演じた土居志央梨が、当初山田轟法律事務所の日常や、身近な事件を解決していくような楽しい感じをイメージしていたが「こんなにハードなスピンオフになるとは全く想像していなかった」と語ったように、内容は連ドラ以上に社会の歪に迫る。

 連ドラでは、寅子の学友のひとりである朝鮮人・崔香淑(さいこうしゅく/ハ・ヨンス)のエピソードや華族制度廃止により身分を剥奪された涼子(桜井ユキ)が、戦争で車椅子生活を余儀なくされた使用人・玉(羽瀬川なぎ)とともに生きていこうとするエピソードや原爆裁判など、社会問題を点描してきた吉田さん。エンタメの世界では描くことがためらわれるような題材を「透明化」することなく積極的に向き合った。

「スピンオフでもどうしても描きたかったとことがありました。朝ドラの時はとりこぼしてしまい、取り上げることが難しかったことがありました。でも、スピンオフなら描けると」

 それは憲法14条にある“すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。”を守るうえでとても大事なことのひとつだ。