「なぜ今、人工ダイヤモンドなのか?」日米が900億円もの巨額投資をする“本当の狙い”写真はイメージです Photo:PIXTA

歯医者の治療器具や研磨用器具、航空機のエンジンなど、現代社会において、「人工ダイヤモンド」は必要不可欠な素材だ。日米両政府が関税合意の目玉案件にこの素材を選んだのは、経済安全保障上の危機感の表れにほかならない。実は、世界の人工ダイヤモンドの供給を握るのはほぼ中国一国なのである。日米連合は中国の牙城を崩せるのだろうか。(中小企業診断士 関谷信之)

対米投資案件の1つに「人工ダイヤモンド」が選ばれた

 2月、日米関税合意に基づく対米投資案件の1つとして「人工ダイヤモンド」が選ばれた。

 投資額はおよそ6億ドル(約900億円)で、人工ダイヤモンド工場の新設に使われる。これを受け、赤沢亮正経済産業大臣は以下のようにコメントした。

「人工ダイヤモンドは、『特定の国』に100%依存している。自立性が損なわれている」
「プロジェクトが動けば、『特定の国』への依存は50%を大きく切ることになる」

 言うまでもないが「特定の国」とは、中国だ。

工業用ダイヤモンドの覇権は中国が握っている

 中国の主力商品は「砥粒」、すなわち研磨などに使われる工業用の小粒ダイヤモンドである。中国は1970年代後半から次々に人工ダイヤモンド製造企業を立ち上げ、現在の圧倒的な生産体制を構築した。現在では、大量の高温高圧合成装置(HPHT法。後述する)を用い、1カラット未満の小粒ダイヤを数万個単位で作り上げることができる。

 昨年10月、中国が揺さぶりをかけてきた。「人工ダイヤモンドの輸出に審査を必要とする」という輸出規制を発表したのだ。もし中国からの輸入が途絶えれば、建物は建たず、飛行機も飛ばず、歯医者にさえかかれなくなる。発効前日に施行が約1年延期されたものの、いまだ予断を許さない。

 今回新設される工場は、中国の独占状況を打破するためのものだ。米国商務省の「投資案ファクトシート」には、HPHT方式の工場をジョージア州に建設し、ダイヤモンドパウダー(砥粒研磨材)を製造する、と記されている。今回の「投資」案において、日米間にどのようなシナジー(相乗効果)があるのか。考察する。