1時間ほどしても動きはなく、私は健太さんに実家ではなく、自宅に帰ってもらいました。白い軽自動車は数分後出発して、迷うことなく健太さんの自宅まで行き、30分ほど付近に停車したのち走り出しました。

 その直前に、健太さん宛てに「帰ったのね。おやすみなさい」とのメッセージがありました。

 その後、白い軽自動車は15分ほど走ったアパートの駐車場に駐車して、302号室に入っていきました。

 私はその一部始終を確認して、ストーカーの自宅を突き止めることに成功しました。

 朝の9時頃、健太さんは警察に被害届を出しました。

 警察はAirTagのシリアル番号からAppleに正式照会を行い、所有者が静川心(しずかわ・こころ、30歳)であることを確認しました。

 この当時はまだ改正前のストーカー規制法(注1)でしたが、健太さんが提出したメッセージ・写真・AirTagのログから、警察は位置情報無承諾取得の危険性を認め、ストーカー規制法違反の疑いで事件を受理。

 証拠に基づき、静川に対し接近禁止命令を発令しました。違反すれば即逮捕となる強い措置でした。

(注1:2025年12月30日から、紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得などが明確に規制対象となりました)

ストーカー彼女の正体
好意をもったきっかけとは?

 健太さんとストーカーの静川は、同じ会社の社員でした。

「ほとんど接点はなかった女性が、なぜか妙な視線を送ってくる」と思っていたのが静川だったそうです。

 社内では「静かで真面目で目立たない子」というイメージで、健太さんも「ほとんど話したこともないのに」と不思議に思ったそうです。

 警察の聞き取りに対して、静川は「きっかけは社内忘年会で健太さんがおしぼりを渡してくれたんです。その優しい笑顔に心を奪われて、私の運命の人だと思ったんです」と答えたそうです。

 それからは「健太さんは私のもの。他の誰にも渡さない」とゆがんだ愛情を育てていたのです。

 静かな微笑みの裏に隠れた狂気こそが、人間が一番恐ろしい瞬間だと、私は改めて思い知らされました。

「ずっと見守りたかった」という思いから、まず静川は健太さんがいつも仕事で使っているカバンの裏地に目立たないようにAirTagを縫い付けて監視を開始したそうです。

 動機については「これで毎日、健太さんの近くにいられると思ったんです」と幸せそうに答えたそうです。

 静川は会社を辞め、接近禁止命令を守って姿を現さず、メッセージも送ってくることはなくなったそうです。

 今も相談がないことから、健太さんは平穏に暮らしているのだと思います。