中国政府が家計部門への
所得移転に踏み込めない理由

 今回の全人代では、国内需要の拡大がこれまで以上に前面に打ち出された。孤立を深める中国にとって、輸出依存からの脱却と内需拡大による成長は、国力増強とステータス向上のためにも不可欠だ。

 政府活動報告は、低所得層の所得引き上げ、財産所得の拡大、賃金・社会保障制度の改善を掲げた。具体的には、消費財買い替え支援に2500億元(約5兆8000億円)、財政・金融連携基金に1000億元(約2兆3000億円)を計上。農村・非就業都市住民向け医療保険の政府補助引き上げや基礎年金の増額も盛り込まれた。

 消費が縮小し続ければ、かつての日本のようにデフレスパイラルに陥るリスクがある。その意味では、内需拡大を重視する姿勢自体は理に適っている。

 ただし、今回打ち出された施策の中心は補助金と信用支援であり、一時的に消費を刺激するに過ぎない。需要の先食いをするだけで、その反動がいずれ訪れる。

 IMFとロイターによれば、中国の家計消費はGDP比でおよそ40%と、世界平均を約20ポイント下回っている。今年1~2月の小売売上高は前年同期比2.8%増にとどまり、消費が力強く回復しているとは言い難い。中国の家計が将来不安から貯蓄に走っている実態が、この数字に表れている。

 IMFは、農村部の社会支出を倍増させれば5年で消費をGDP比2.4ポイント押し上げると試算する。また、2億人の農村移住労働者に都市住民に近い地位を与えれば、さらなる消費押し上げが期待できると指摘する。

 IMFが主張するように、中国で本質的な消費拡大を実現するには、社会保障・戸籍・地方財政といった構造問題に正面から取り組む必要がある。

 だが、そこに踏み込めば地方政府の財政負担は恒久的に膨らみ、地方政府や建設会社などとつながる既得権層、すなわち中国共産党員にダメージが直撃する。

 中国政府が家計への本格的な所得移転に踏み込めない理由がここにある。問題の所在は理解しているはずだが、保身の論理で動く中国共産党に、自ら火の粉をかぶろうとする者がいるはずがない。

 リベートで成り立っている中国共産党では、金が切れれば自らの地位も危うくなる。