世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。
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多様な個性が根づく「海・山形」
山形県は、県全体で見ても非常に食のレベルが上がってきている県です。
海側の「海・山形」と山側の「山・山形」がありますが、今回は「海・山形」の魅力をひもといていきましょう。
鶴岡市の隣、酒田市の駅前にある商業施設に「フランス風郷土料理ル・ポットフー」という店があります。この店がここで開業したのは数年前ですが、実は「ル・ポットフー」の歴史は昭和48年までさかのぼります。
創業者は佐藤久一(きゅういち)さんという方。
彼にまつわる書籍を読むと、かなり破天荒な方だったことがわかります。彼は、父親から譲り受けた映画館「グリーン・ハウス」を世界一の映画館にしたことでも有名です。
当時はフィルムの時代なので、たとえば外国の映画のフィルムが15本しか入ってこないとなると、東京や大阪が一番手を担います。その次は名古屋や金沢など。山形に順番がまわってくるのは数年後という状態でした。
しかし佐藤さんは、グリーン・ハウスの魅力を高めることで(ホテルのような雰囲気のロビー、ビロード張りの椅子など、東京の映画館にもないような設備やシステムを取り入れた)、銀座と肩を並べてフィルムを一番手で受け取れるような映画館にしました。映画評論家の故・淀川長治さんが当時、グリーン・ハウスを「世界一の映画館」と評したほどです。
これだけでも、かなりのやり手であることがわかるのですが、そんな彼が次に手掛けたのはレストランでした。酒造メーカーのオーナー家の生まれなので、飲食業界にも興味があったのでしょう。
それが、約50年前に作られた「ル・ポットフー」です。
地中海に浮かぶ豪華客船をイメージして作られた店舗は、数々の調度品で彩られ、気品あふれる造りでした。料理にも当然こだわります。山形は実は魚がすごいということを発見し、「これが酒田風フランス料理だ」といわれるような料理を作り上げていきました。
しかし、破天荒な方なので、採算は度外視。原価が価格を上回るような料理を出すこともありました。それでも周りの人たちは「まぁ、お坊ちゃんだから仕方ない」という雰囲気で見守っていたようです。きっと、それが許される魅力的な人だったのでしょう。しかし、そうは言ってもやはり事業は赤字が続いてしまったため、彼は解雇され、最後はがんを患い、一生を終えました。
創業者のDNAを引き継いで、進化するレストラン2つ
しかし、佐藤さんのDNAが途絶えることはありませんでした。
佐藤さんとタッグを組んでいた太田政宏さんという料理長は、佐藤さんが解雇された後も店に残り、佐藤さんのDNAを引き継いでいたからです。そして、その太田さんもこの世を去った今、太田さんの息子がさらにDNAを引き継いで、「Restaurant Nico(レストラン ニコ)」を、太田政宏さんの下にいた料理人がシェフとして新生「ル・ポットフー」を受け継いでいます。
こんな、ストーリーを知ったうえで店に足を運ぶと、より深い味わいを得られるのではないでしょうか。
また、鶴岡市には、庄内地方の新鮮な食材を活かした創作料理店「ブラン ブラン ガストロパブ」や、本書の第三章でも紹介し、頭ひとつ飛びぬけたガストロノミーツーリズムの名店「アル・ケッチァーノ」もあります。各々の色を楽しみながら、ガストロノミーツーリズムを体験してみてください。
※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。






