調理にまつわる話は、少し後で語るとして。

 力士は食べることも大切な仕事だ。たくさん食べることを相撲隠語で「えびすこ」というが、えびすこを決めよう(たくさん食べよう)という時に、まずい料理では話にならない。そのせいだろう。相撲部屋の料理は、すべてがうまい。

「ちゃんこ」という言葉は
さまざまな意味を持つ

「ちゃんこ=鍋」のイメージは、名門・出羽海部屋で生まれたと言われている。明治末の出羽海部屋は、部屋に何人所属しているのか把握できないくらい、大勢の力士がいた。そんな時代に、大人数でも食べられるようにと、鍋が出されるようになったらしい。この習慣が他の部屋にも広がったとされる。

 ちゃんこは、それぞれの相撲部屋で力士が調理する。「ちゃんこ長」と呼ばれるベテラン力士が指揮し、毎日大量の料理を出している。ちゃんこ長に実力上位者はまずいないが、料理の腕はプロ顔負けだ。

 国技館のある東京・両国には、何軒もの「ちゃんこ屋」が味を競っている。引退したちゃんこ長たちが腕をふるう店も多い。

 ところで――。

「きょうは、いい練習になりました」

 大学出に多いのだが、関取になっても、そんなことを言う力士がいる。それを聞いた親方衆がつい、愚痴を漏らすことがある。

「あいつは、いつまでたっても、『ちゃんこ』が染みねえなあ……」

 角界の習慣になかなか染まらない、といった意味だ。ちなみに、角界での言い方は「練習」ではなく、「稽古」である。

 もう1つ。

「ちゃんこが染みない」というのは、いつまでたってもろくな記事が書けない相撲記者に、現場責任者のキャップが嘆く言葉でもある。四半世紀ほど前、私もよく言われたもんです。

「次男坊」の北勝海が
目指した「ちゃんこ改革」

 九重部屋で育った元横綱北勝海の八角理事長には、横綱千代の富士という九重部屋を継ぐべき偉大な先輩がいた。部屋の「次男坊」的な存在だった北勝海は、引退後は独立して新しい部屋を興し、これまでにない指導方針で弟子を育ててみたいと思っていた。