土俵写真はイメージです Photo:PIXTA

古くから日本で親しまれ、現在まで続いている相撲。日本人に密着してきた国技ゆえに、相撲由来の言葉は身近にあふれている。知らず知らずのうちに使っている、意外な相撲ルーツの言葉とは。※本稿は、内館牧子『大相撲の不思議3』(潮新書)の一部を抜粋・編集したものです。

もともと相撲用語だったのに
一般的に使われている慣用句

 私は体調を崩して入院していたのだが、ちょうど平成28(2016)年の名古屋場所(7月場所)中だった。病室では早くからのテレビ観戦だけが楽しみだった。15日間すべて満員御礼が出ていたが、昔からの相撲ファンに加え、新たなファンがふえたおかげだろう。

 ホヤホヤの1年生ファンにとって、相撲界の独特な言葉は、最初は意味不明ではないだろうか。実況アナウンサーが、「××山、押し出しッ!△△川としては、得意の右はずから自分十分に持っていきたかったでしょうが、××山の電車道でした。××山、12日目にして初日が出ました」と言い、解説者が答える。

「××山、今日は勝ちましたが、この後の対戦相手を考えますと、両目が開くのは大変ですよ。この番付、ちょっと家賃が高すぎたかなァ」

 1年生ファンの中には「右はずって何?」「自分十分って?」「電車道なんか土俵にないけど」「初日が出たって言うけど、今日は12日目よ」と首をかしげる人もあろうし、「両目が開く」「家賃が高い」などワケがわからない人もいるだろう。これらがわかってくると、通(ツウ)らしい自分が嬉しいものだ。

 一方、元々は相撲界の言葉であったのに、一般社会で当たり前に使われるようになった慣用句も非常に多い。私たちが普通に使っているあの言葉が、まさか相撲から来ているとは思いもしないのではないか。

 7月18日に病室で見たNHK実況中継では、そんな言葉を幾つか紹介していた。例えば「白黒つける」。私たちも日常生活の中で「もう白黒つけるしかないよ。待ったなしのところに来てるからな」などと言う。白星、黒星からの言葉で、「ものごとをハッキリさせる」という意味だ。「待ったなし」も普通に使うが、これは相撲の言葉だとすぐに気づくだろう。

 テレビでは「あげ足を取る」とか「押しが強い」「格段の差」なども紹介していたが、これらも相撲からだとわかる。「押し」は「決まり手」だし、「格段」は番付から来ている。番付は五段に分けて書かれ、地位(つまり格)によって名前が書かれる段が違う。