部下に背を向けて悩むシニア男性ビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

企業の職場では今、「上司と部下の本気の対話」が急速に減っている。ハラスメントへの警戒が高まる中で、上司は部下との距離を取り、叱責や指導を避けるようになった。一方で若手社員の側にも「叱られたくない」「対立を避けたい」という意識が広がっている。この組み合わせが、職場のコミュニケーションを静かに崩壊させているのだ。パーソル総合研究所上席主任研究員の著者が、実際のデータからその背景を読み解く。※本稿は、小林祐児『職場の対話はなぜすれ違うのか』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

ハラスメントを恐れて
上司は何もできない

 職場コミュニケーションの現在地をしっかりとつかむために、照準を上司と部下との間のコミュニケーションに絞って、詳しく見ていきましょう。近年の職場課題として特に顕著になっているのが、マネジメントと部下の距離感の問題です。その背景には、「職場のハラスメント」の問題があります。

 ここ数十年、社会全体でハラスメント防止の機運が高まり続ける中で、職場においてもセクハラやパワハラなどについて啓発する研修や訓練が数多く提供されてきました。そうした研修に参加するマネジャーたちは、「自分の若いころはハラスメントばかりだった」「時代が変わった」などと社会の変化を感じながら、そうした知識をインプットされ続けています。また、テレビをつければ、ワイドショーが有名人のハラスメントへの告発や疑惑などを、毎日のように実名で報道しています。

 そのような訓練や世論の空気感からハラスメントへの意識を上げたマネジメント層は、部下とのコミュニケーションにどんどん消極的になってきています。パーソル総合研究所の調査では、上司の75%が、部下を「飲み会やランチに誘わないようにしている」と回答。他にも、「ミスをしてもあまり厳しく叱咤しない」、さらに6割が「必要以上にコミュニケーションをとらない」と回答しました。さらに、ハラスメントに対して強く律する意識を持つ上司ほど、こうしたコミュニケーションを「回避」しようとする傾向も強くなっていたのです(*注1)。

*注1 パーソル総合研究所「職場のハラスメントについての定量調査」