無駄な工程を省き、100%計画通りにプロジェクトを完遂させる。多くのリーダーが「有能さ」の証として掲げるこの姿勢が、実はチームの「大化け」を阻む最大の壁になっているとしたら――。サンダンス映画祭でグランプリを受賞した映画監督・長久允氏は、自らの制作現場において、あえて「ノイズ(無駄や偶然)」を排除しないという。120点の成果へと跳ね上げさせる「ノイズ活用術」とは。※本稿は、長久允『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』の一部を抜粋・編集し、独自インタビューを交えて構成したものです。(文/飯室佐世子)

脚本の教室Photo: Adobe Stock

「計画通り」は、成功の最低ラインにすぎない

 ビジネスの世界では、無駄は敵と見なされます。

 リソースを最適化し、リスクを排除し、最短距離でゴールへたどり着くことが、リーダーの至上命題だと教えられてきました。

 しかし、そうして出来上がった100%計算通りの仕事に、あなたはワクワクしたことがあるでしょうか。

 すべてが予定調和に進むプロジェクトからは、想定内の結果しか生まれません。

 それは失敗ではないかもしれませんが、世界を驚かせたり、市場を塗り替えたりするようなイノベーションとは程遠い、いわば「二流の成功」で終わってしまうのです。

 本当の意味で「化ける」成果を生み出すのは、計算の外側からやってくる、一見すると、無駄やノイズに見える要素です。

撮影現場の「アクシデント」を、最高の演出に変える

 長久監督は、映画制作という極めて多額の予算と時間が動く現場において、あえて「ノイズ」を受け入れるスタイルを貫いています。

長久允氏:撮影現場で予想外の雨が降ったり、役者が台本にない動きをしたりする。それを「計画を邪魔する無駄」として排除するのではなく、むしろ「具材」として全肯定して、その場で脚本を書き換えていくんです。

 監督の頭の中にある正解だけをなぞっていては、自身の想像を超える作品にはなりません。

 現場で起きる予期せぬアクシデントや、スタッフからの異論。それらを切り捨てるのではなく、「面白い素材が飛び込んできた」と面白がって取り込む。

 この「未完成を許容する余白」こそが、作品を100点満点以上の場所に連れて行くのだといいます。

「優秀すぎるリーダー」がチームの限界を決めている

 これはビジネスの現場でも同じことが言えます。

 リーダーが優秀で、すべての工程に正解を持ってしまっているチームほど、メンバーは指示通りの「作業者」になり、仕事はこぢんまりとまとまっていきます。

 メンバーが持ってきた突拍子もないアイデアや、クライアントからの無茶な要望。それらを「無駄な手間が増える」と一蹴するのは簡単です。

 しかし、そのノイズを「これを使って、もっと面白いことができないか?」と飲み込んでみたときに、当初の企画書にはなかった化学反応が起こります。

 著書の中で、長久監督は「他者」という存在そのものを、自分を拡張してくれるノイズとして定義しています。

効率の先に、あえて「余白」を設計する

 もちろん、基礎となるロジックや効率化を否定するわけではありません。しかし、効率化を極めた先にあるのは、誰が作っても同じになる「コモディティ化」した成果です。

 もしあなたが、今の仕事に突破口を求めているのなら、一度だけ、無駄を排除する手を止めてみてください。

 会議での脱線した議論、想定外のトラブル、反対意見。それらを、予定を狂わせる敵ではなく、仕事を唯一無二のものに変えてくれる「贈り物」として受け入れてみる。

 ノイズを楽しめる度量こそが、二流のリーダーと、世界を動かすリーダーを分かつ境界線なのです。

(本稿は、『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』の発売を記念したオリジナル記事です)