私がおすすめするのは、チームにとっての「レバレッジ・ポイント」を特定するという方法です。
 レバレッジとは、「てこの原理」のこと。つまり、より少ないリソースを投入することで、より大きな成果を生み出す「仕事」や「方法」のことを、「レバレッジ・ポイント」というわけです。

 具体的に考えてみましょう。
 私のクライアント先である営業チームの事例です。
 チームリーダーの吉野課長は、チーム状況の悪化に悩んでいました。ここ数年、メンバーは忙しく動き回ってくれているにもかかわらず、売上が頭打ち状態になっており、多くのメンバーが疲弊していたのです。

 吉野課長の目には、その原因は明らかでした。
 チームの業務量があまりにも過剰になっていたためです。
 その会社は、社内システムの開発・販売を主たる業務とするベンチャー。営業チームでは、既存商品に加えて、開発部門が精力的に生み出す「新しいサービス」を販売するべく全力を上げていました。

 ところが、年々、扱う商品が増えていくために、営業チームの業務はどんどん複雑になっていました。しかも、既存顧客へのアフターフォローに加えて、新規顧客の開拓にも力を入れていたことも、メンバーの業務負荷を高める要因となっていました。

 その結果、顧客対応に“抜け漏れ”が目立ち始めた結果、クレームをはじめとする問い合わせ対応も増加。これが、さらにチームの心理的リソースの消耗を加速させていたのです。

リーダーの「着眼点」が重要

 業務を削減するほかない――。
 人員増が難しい状況にあるため、吉野課長はそう結論づけるほかありませんでした。

 そして、彼が目をつけたのが、「営業効率」でした。
 これまで、吉野課長のチームでは「新規顧客の開拓」に力を入れていましたが、改めて確認すると、新規顧客より既存顧客への営業のほうが格段に営業効率がいいことが判明したのです。

 特に「新しいサービス」を新規顧客に売り込むのは極度に難易度が高く、すでに信頼関係を築いている既存顧客に売り込むほうがはるかに営業効率がよいことが明確になりました。

 つまり、吉野課長のチームが生産性を上げるための「レバレッジ・ポイント」は、「既存顧客への営業」だということがわかったわけです。

 また、次のことも明確になりました。
 これまで、どうやって「新規顧客」を獲得してきたかを調べたところ、その大半が「既存顧客」からの紹介だったことがわかったのです。ゼロから信頼関係を築くよりも、すでに信頼関係を構築している「既存顧客」から紹介されたほうが、営業効率がよいのは考えてみれば当たり前のことでした。

 こうしたことを踏まえて、吉野課長は「これからは、既存顧客への営業に集中する」と宣言。そのうえで、次の2つの方針を明示したのです。

1)「既存顧客」を丁寧にアフターフォローするとともに、「新しいサービス」を積極的に提案。強固な信頼関係を構築したうえで、「新規顧客」の紹介依頼をする。
2)今後、「新規顧客」への直接営業はやめて、「既存顧客」に紹介依頼することを基本とする。

「やるべき仕事」と「やらない仕事」を明確にする

 この戦略が見事にはまりました。
 メンバーは「既存顧客」にリソースを集中させることができるため、業務は大幅に効率化。それに、これまでは膨大な商品ラインアップのすべてを売ろうとしていましたが、「既存顧客に新しいサービスを販売」することに集中しやすくなったことも、彼らのリソースの節約につながりました。

 また、「既存顧客」との信頼関係構築に多くのリソースを割くことができるようになったために、「新しいサービス」の受注率が高まったうえに、「新規顧客」の紹介件数も大幅に増加。「新規顧客」への直接営業をやめたにもかかわらず、かえって「新規顧客」が増えるという効果を生み出したのです。

 しかも、顧客に対するアフターフォローに万全を期すことによって、クレームをはじめとする問い合わせ対応件数も減少するという嬉しい副産物までもたらされました。こうして、メンバーの心理的リソースが回復することによって、さらにチーム業績は上昇曲線を描くようになっていったのです。

 いかがでしょうか?
 このように、心理的リソースが消耗しているときには、チームの「生産性」「業績」「効率性」などに対する効果が大きい「レバレッジ・ポイント」を明確にして、そこにリソースを集中することが大切です。

 吉野課長が実践したように、「新規顧客への直接営業」という効果の低いタスクをやめ、「既存顧客への営業」という「レバレッジ・ポイント」にリソースを集中させることで、メンバーの心理的リソースを節約しながら、大きな成果を上げることができるようになるのです。

(本原稿は『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』を一部抜粋・加筆したものです)

櫻本真理(さくらもと・まり)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。