日本銀行とFRBが目標とする物価上昇率

イラン情勢の緊迫化が中央銀行の政策決定に与える影響は複雑だ。エネルギー資源価格の上昇がインフレ圧力を加えることは各国共通である。他方で景気への影響は、資源の純輸出国と純輸入国とでは180度異なる。
日米を比較するだけでも、実体経済が受ける影響の違いは大きい。シェール革命によって米国はエネルギー資源の純輸出国へと変わったが、日本はエネルギー需要の大部分を輸入に依存している。
とはいえ、これだけで「イラン情勢の緊迫化はFRB(米連邦準備制度理事会)に利上げの動機を与えるが、日本銀行の金融政策への影響は中立だ」と結論付けるのは早計だ。両者では目標とする物価上昇率は2%で同じように見えるが、実はその実態は大きく異なるためである。
第一に、FRBは物価安定と雇用最大化という二つの目標を追っている。これに対し、日銀が追求するのは物価の安定のみである。
第二に、目標とする物価指数も異なる。FRBはエネルギー価格を含まないコアPCE(個人消費支出価格指数)を目標とするのに対し、日銀はエネルギー価格を含むCPI(消費者物価指数)を目標とする。結果として、実体経済に下押し圧力が加わる中でも、日銀はインフレ対応を優先し、利上げを加速させる可能性がある。
日銀のマクロモデル「Q-JEM」を用いて、原油価格が1バレル当たり50ドル上昇し、その後も高止まりが続いた場合の影響を試算してみよう。日本の実質GDP(国内総生産)の水準は1年後に0.49%ポイント、2年後に0.85%ポイント、3年後に0.86%ポイントの下押し圧力を受ける見込みだ。
この間、CPI(除く生鮮食品)の水準は1年後に0.62%ポイント、2年後に0.50%ポイント、3年後に0.25%ポイント上振れすると試算される。結果として、政策金利の水準は1年後に0.35%ポイント上振れした後、2年後に0.04%ポイント、3年後に0.41%ポイント下振れする見込みとなっている。
しかし、エネルギー資源価格の変動に右往左往し、実体経済が悪化する中で利上げペースを速めた後、今度は減速に転じるという政策運営は、果たして国民の厚生を最大化するのだろうか。
もちろん、モデル試算の結果は、あくまで目安にすぎず、実際の政策決定は総合判断によって下される。中東情勢の緊迫化をきっかけに、金融政策運営の在り方が再考されることを期待したい。
(みずほ証券エクイティ調査部 チーフエコノミスト 小林俊介)







