相鉄グループ、パナソニック、中川政七商店、黒木本店、尾鈴山蒸留所、久原本家 茅乃舎、そしてくまモン……様々な案件で大ヒットを生み出してきたクリエイティブディレクター・水野学氏。さぞや忙しいのでは、と思われがちだが、実は毎日8時間睡眠のゆったりした生活を送っているという。
それは独自の時間の使い方があるからだ。いったいどうしたら、焦らず、慌てず、余裕のある生活ができるのか? 水野学氏の著書『逆算時間術』(ダイヤモンド社)から探ってみたい。

部下に「夜遅くまで働いてくれ」と言わずに済むようになった、巨匠から学んだ“時間の新ルール”とは?Photo: Adobe Stock

仕事とは、「時間スポーツ」である

 仕事における時間の考え方については、独立して3年ほど経ったときに出会った、衝撃的な言葉に大きな影響を受けることになりました。デザイン界の巨匠と呼ばれていた仲條正義(なかじょうまさよし)さんの本に、こんなことが書かれていたのです。

「締め切りが完成」

 最初は意味がよくわかりませんでした。当時グラフィックデザインの仕事が中心だった僕は、一つひとつの仕事の完成度を上げるべく、Macの前に長時間座って奮闘していました。ところが、巨匠は「締め切りが完成」だという。

 よく考えてみると、その意味がわかりました。時間が来たら、そこで終わりだ、ということです。納得いく完成形になっていないからもう少し時間をかけよう……ではなく、時間が来たら終わり。何より優先されるのは締め切りであり、時間がきたときが完成なのだ、と。

 よく仕事をするとき、「時間がない」と言っていましたが、そうではなかったのです。時間は最初から決まっているし、1日は誰しも平等に24時間。締め切りまでに目指すものができるように、時間をどう使うかが大事なのに、そこの工夫が足りないだけだということに気がついたのでした。

 時間についてより強く意識するようになったのは、このときからです。時間をコントロールしなければいけないという概念が弱かった。だから、時間に追われていたのです。

 わかりやすい例を挙げましょう。スポーツには、時間スポーツとスコアスポーツがあります。時間スポーツは、時間が来たら終わり。サッカーやバスケットボールがそうです。同点の場合は、延長などもありますが、基本的に時間で勝負は決まります。

 それに対して、野球は基本的に時間が定められていません。延長何回までやるか、というルールはあるにしても、スコアで決着するまで時間にコントロールされない。

 では、「仕事」とは何か。基本的には、時間スポーツなのです。サッカーやバスケットボールと同じ、時間で区切られている。ところが、かつての僕がそうだったように、それが抜け落ちてしまう人は意外と多い。スコアスポーツだと勘違いして、「完成していないから」といつまでもやってしまう。

 そうではなくて、時間内にたくさん点を取ったほうが勝ちなのです。仕事は時間スポーツ。職種にもよりますが、これを忘れてはいけないと思っています。

 とりわけ今は労働環境に気をつけなければいけない時代になって、余計に「時間内にどれだけパフォーマンスが出せるか」が問われるようになっています。スコアスポーツではない、という認識が必要なのです。

 仲條さんの言葉を知ってから、特に意識が変わったのは、当時から一緒に仕事をしていた事務所のスタッフとの働き方でした。もともと夜遅くまで働いてもらうのは本当に嫌でしたが、この考え方を共有するようになっていったのです。

※本稿は、『逆算時間術』水野学(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して掲載したものです。