明治19年12月。りんと直美、看護学校へ

 りんと卯三郎は「社会」について語り合う。

「徳川の世は徳川様のものであって、みんなのもんじゃない」

 偉い人たちに決められているもので、社会からはみだした者はそのなかに入っていない。だが「社会」はそうではないのではないかとりんは考える。

「社会って言葉にはもっといろんな人がいるような気がして。私のように、子持ちで女で働かせてもらっている人も、シマケンさん(佐野晶哉)みたいに、何者か分かんない人もみんなです」

 すると卯三郎が言う。

「りんさんが来て、この店も少し変わりました。いる人で形づくられ、いる人で変わっていくのかもしれません」

 りんが来てこの店も少し変わった? もしかして見逃した回があった?と筆者は焦った。

「ワープ」「ショートカット」「総集編」「最終回」とこれまで朝ドラには様々な呼び方をする展開があったが、「見逃したかと思った」という経験は筆者的には『風、薫る』がはじめてである。朝ドラ史に新たな展開が加わった。朝ドラを毎日記録して12年目の筆者はいま、そう感じている。

 さておき。「医療は、今にビッグマーケットになりますよ。10年後、100年後には、誰もがナースの看護を受ける。そういう社会が来ているかも」と卯三郎は未来を見据える。

 医療をビジネス的に語るのはどうかとも思うが間違いではない。彼は商人なので目線がビジネス。「リターン」というのも彼のビジネスにおいてりんが何かをもたらしてくれると期待しているのだ。根拠レスの成功者特有の勘みたいなものでりんを雇ったら、うまいことビッグマーケットの道に転がり始めたということだ。卯三郎は「持っている」。

 明治19年12月。1886年、いまから140年前だ。

 りんと直美が梅岡女学校の門前にやって来る。

 第5週はいよいよ看護学校編のはじまり。本題に入るまで長かったと思うべきか、怒涛のように走り抜けた序章だったと表現すべきか、人によって捉え方が違うだろう。

「あれ、見逃した回がある?」朝ドラ史に残る“描かれなかった変化”で浦島太郎状態に〈風、薫る第20回〉
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