超高齢社会で、この概念が重要視される理由は、「フレイル」になっても健常な状態に回復することは可能であり、「フレイル」に陥りかけている高齢者を早期に発見し、予防やケアを積極的に行うことによって、健常状態への復帰が期待されるからである。

 一方、「要介護」となった高齢者が「フレイル」、「健常」まで改善することは容易ではない。

 図表1-2は、2020年に国立長寿医療研究センターが発表した、簡素化された日本語版フレイル基準で、「フレイル」がどのような状態を指しているかがわかるだろう。

図表1-2 フレイルの概念図と日本語版フレイル基準同書より転載 拡大画像表示

「フレイル」はこのほかにも様々な判定基準が提案されており、東京都健康長寿医療センターは、地方自治体の特定健康診査で用いられる後期高齢者を対象とした質問票の活用を推奨している。

「フレイル」は、健康に暮らしている高齢者の健康維持を目指すための指標として用いられることが多い。これに対して、介護保険サービスを受ける場合の要介護度の判定は、高齢者の健康状態の評価を、医師、ケアマネジャーなどが実施して行っている。なお、患者に対して、大きな身体的・精神的負担を強いる治療を実施する場合には、後に述べるような、より厳格な評価が実施される。

 健康に暮らし、たとえ病気になっても最善の治療を受けられるように、「フレイル」と判定されたら、積極的に生活習慣を改め、リハビリテーションなどの適切な医療を受けるなどして健常状態に復帰する努力を続けることが望ましい。

50歳をすぎると急増する
がんの兆候を見逃さない

 高齢者の主な死因は、がん、脳血管疾患(脳卒中など)、心臓疾患(心筋梗塞など)、感染症、老衰などである。日本では、毎年、約100万人ががんに罹り、約38万人ががんのため命を落としている。我々は、今、国民の2人に1人が一生のどこかでがんに罹り、4人に1人ががんで命を落とす「がんの時代」を生きている。

 がんは、現在、日本人の死因の第1位であり、死亡者数の約2.5割を占めている。人口の高齢化とともに、がんの死亡者数は増加し、1981年、日本人の死因第1位になった。その後も、がんによる死亡者数は増加し続けている。

 その一方で、予防、早期発見、早期治療などのがん対策が効果を上げ、医療技術の進歩も相まって、年齢構成を同じにして計算した年齢調整死亡率は1990年代半ば以降着実に低下している。つまり、がんは以前に比べて治りやすくなっている。ただし、高齢化率が上昇を続け、高齢者数が増え続けているため、がんによる死者の実数はいまだ増加し続けているのが現状である。

 がんは、高齢者が罹りやすい病気である。身体の老化に伴ってがんを排除する仕組みが衰えるため、体内には微小がんが発生しやすくなり、その一部ががんとして診断される。

 図表1-3に示すように、年齢別のがん罹患数は50歳以上で急激に増加し、それにつれて死亡数も増加する。がんと診断される年齢は、49歳以下が7.5%、50~64歳が17.0%、65~74歳が30.1%、75歳以上が45.4%となっており、50歳以上が全体の90%以上を占め、そのうち前期高齢者が全体の約30%、後期高齢者が全体の約45%を占めている。このことから、高齢者の健康管理にあたっては、常にがんの存在を頭に入れ、予防、検診、日頃の受診を心がけねばならない。

図表1-3 日本における年齢階級別がん罹患数(2019 年)と死亡数(2022年)同書より転載 拡大画像表示
書影『高齢者とがん』『高齢者とがん』(山口 建、中公新書)