東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。『大人のための地学の教室』は、京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝えている。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されている本書。今回、著者である鎌田浩毅氏へのインタビューが実現した。本記事では、富士山噴火のリスクと備えについて聞いた。(取材・構成/小川晶子)

富士山大噴火、どこにどんな被害があるのか? 噴火への備えはできるのか…京大名誉教授の「気になる答え」とは画像はイメージです Photo: Adobe Stock

富士山は噴火スタインバイ状態

――『大人のための地学の教室』には火山の噴火のリスクについても詳しく書かれていて、衝撃でした。富士山は静かにたたずんでいるように見えますが、内側ではマグマだまりのマグマがパンパンになっており、いつ噴火してもおかしくないのですね?

鎌田浩毅氏(以下、鎌田):そうです。溜まったマグマが動いて、ときどき低周波地震が起きています。低周波地震とは、ゆっくり揺れる地震のことです。

 2000年秋には頻繁に富士山の深部で低周波地震が観測されましたし、ここ20年くらいを見るとやはり確実に動いている事実があるんですよ。

 その他いろいろな方法で測るとマグマがたっぷり入っていることがわかります。

 時間軸のストーリーで見ると、富士山はこの300年間噴火していません。10万年くらいの歴史では富士山は平均30年に1回噴火してきました。そのくらいでちょうどいいわけです。

 ところが今回は300年経っているから、10回分マグマを溜めちゃっているでしょ? 次に噴火したら大噴火になることが科学的に予測できるんです。

 今の日本が抱える「三大巨大災害」リスクは、南海トラフ巨大地震、首都直下地震、それから富士山噴火です。

 富士山が噴火して火山灰が東京に来ると、首都圏でライフラインが確実に止まるでしょう。被害総額は2兆5000億円で3000万人が被災すると言われています。

富士山噴火に備えられるか

――富士山噴火に対して、私たちができる備えはあるのでしょうか。

鎌田:地震は起きた直後が大変であり、そのときの行動が重要ですよね。

 家具が倒れてきたりガラスが降ってきたりするから体を守る。海の近くなら津波が来るから、高台に駆け上がる。とにかく生き延びて、あとは片づけたり復旧のために動いたりすればいいのです。

 一方、火山の噴火は予知が進んでいるので、富士山を登っているときに突然噴火するということはありません。3週間前くらいから地震があって、兆候がわかりますから、その時点でもう「富士山には近づかないでください、麓からも離れてください」って言えるんです。

 そういう意味では即死はないんです。噴火してから東京に火山灰が降ってくるまでに2時間かかります。

 溶岩は3日から半年かけて流れてくるといった感じで、時間がかかるのでその間に準備ができますよね。

 火山灰への備えとしては、たとえばゴーグル、マスク、帽子、レインコートが必要です。水や食料品も実際に噴火してから買いに行ったりみんなでシェアしたりすれば、その晩暮らせないということはありません。

噴火の被害範囲

――火山灰の被害は、けっこう広範囲に及ぶものなのでしょうか。

鎌田:静岡県・山梨県は火山灰が5~10メートル積もって、そこから遠ざかるほど火山灰の量は減っていきますが、東京でも数センチメートルは積もることが予測されます。

 関東6県も数ミリから数センチ積もります。火山灰が1ミリメートルでも積もったら電車が止まるし、高速道路もスリップするから通行止めになります。

 火力発電所のタービンも止まる。しかも、火山灰は消えてなくなってはくれません。スコップで袋に詰めて東京湾に持って行かなければならないんですよ。

何が出るかわからない

鎌田:今の話は火山灰のシミュレーションですが、富士山噴火では溶岩が流れてくるかもしれません。300年前は火山灰、1000年近く前は溶岩が流れ出ているんです。

 溶岩の場合、山梨県から神奈川県まで川沿いに流れてくることが予測されます。900度もの溶岩が熱いまま半年も1年も残って、道路は分断されるし、しばらくの間そのあたりの土地は使えなくなってしまう。

 他にも火砕流や噴石など、何が出てくるのか噴火してみないとわかりません。そこが富士山噴火の難しいところです。

(本原稿は、鎌田浩毅著大人のための地学の教室に関連した書き下ろしです)

鎌田浩毅(かまた・ひろき)

京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は115万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。第54回ベストドレッサー賞(学術・文化部門)受賞。