「いつから痛くなったのか?」と関根医師が尋ねると、「トイレに入った瞬間にのどが痛くなった」と女性患者。

「我慢できない痛みではありませんが、トイレに入った瞬間に突然痛くなって、その後ずっと治らないんです」

「突然」発症の痛みは
緊急性が高い

 その言葉を聞き、関根医師は「これは血管の病気に違いない」と直感したという。

「『いつ痛くなったのか?』というのは、普通は答えられません。まして風邪であれば、『昨日の午後から』などと言いますよね。けれどもこの女性は『トイレに入った瞬間』と明確に答えた。痛みはそれを起こす箇所が頭でも、胸でも、おなかの場合でも、『突然発症の痛みは緊急性が高い』というのが救急医療の大原則です」

「というと、一般の方は穏やかな生活で体調を崩した場合、“突然”と表現してしまいがち。そうではありません。『突然発症』とは、症状が起こった瞬間を思い出せ、その時に何をしていたかまで具体的に説明できることです」

 女性はすぐに心電図を測定することになった。すると、「心筋梗塞」を表す所見が出ている。

「緊急で治療が必要です」

 関根医師がそう説明しているとき、驚くべきことが起こった。目の前で女性患者がバタンと倒れ、そのまま心肺停止(意識なし、呼吸なし、頸動脈が触れない状態)に陥ってしまったという。

 が、そこはER。すぐに蘇生措置が行われ、女性は意識を取り戻した。そのまま先の小林院長と同様にカテーテル治療の手術へ。女性は一命を取り留めたという。

心筋梗塞はのど、肩、
歯の痛みで現れることも

 それにしても「胸の苦しさ」ではなく、「のどが痛い」パターンで心筋梗塞はかなり稀(まれ)な例ではないだろうか。

「いえ、そこまで稀(まれ)ではありません。ERで一定程度遭遇する頻度です」と関根医師。

「確かに中年の胸が痛い、胸が締め付けられるといった“胸の苦しさ”は心疾患にほぼ直結します。けれども女性や高齢者、また糖尿病患者は、心疾患であっても胸の症状が出るとは限らないといわれています」

「ですから今回、『女性で咽頭痛(のどの痛み)で心筋梗塞』は十分にあり得ます。他にも肩の痛みや歯の痛みなどの症状で現れる可能性もありますし、特に糖尿病の方は痛みを感じにくいので、無痛性心筋梗塞の場合もあります」

 もし女性患者を診察した医師が、コロナか風邪だと決めつけ、コロナ検査に突き進んでいたらと考えると恐ろしい。「異常なし」と診断され帰されていれば、女性は心筋梗塞発症後に後遺症が残ったか、助からなかったかもしれない。