「のどの違和感」と
「左足の冷たさ」

 実際に関根医師は新米医師だったころ、痛みを訴えていた事例で悲しい出来事を経験した。

 持病がなく、元気に暮らしていた42歳男性がある日の勤務中、「のど元でポキッと音が鳴るような違和感」を覚えた。その後、体調がしんどくなり、職場の休憩室で1時間程度横になっていたそうだ。だが体調は回復せず、徐々に左足が冷たくなっていくような感覚があった。男性は怖くなり、119番にコールして救急要請をした。

 救急車で湘南鎌倉総合病院に運ばれてきたその男性は、やはりバイタルサインの異常はなく、一見すると軽症に見えた。しかも運ばれてきたストレッチャー(担架)の上で横にならず、あぐらをかいて座っていたというのだ。

「なんだかじっとしていられない。嫌な感じなんです」

 男性患者は言った。関根医師はすぐに問診をし、突然の「のどの違和感」と「足の冷たさ」を聞き取ると、「大動脈解離かもしれない」と思った。体で最も太い血管「大動脈」が、解離する(裂ける)疾患だ。

離れた場所で症状が突然起きたことで
大動脈解離を疑った

「離れた場所で症状が突然起きた。それをつなぐものは血管です。大動脈解離は働き盛りの男性に起こり得ることからも、その可能性を疑いました。少なくともこの状態からは、『大動脈解離でない』ことを証明しなければなりません。そこで即、CT検査を行うことにしました。が、検査準備している間に男性は心肺停止になってしまいました」

 その時、家族が病院に到着した。家族の前で蘇生行為を行ったことを関根医師は今もはっきりと覚えているという。

「結局、救命できませんでした。解離し始めた血管が、完全に裂けてしまったのです」

 こういった場合、予防できただろうか。私が聞くと、関根医師は「難しいかもしれません」と唇をかむ。

痛くなる理由がないのに
突然痛みが起きたら緊急受診を

「ただ職場の休憩室で休んでいた時間がなければ、助かっていた可能性がゼロではありません。突然発症の痛みで、胸が痛かったり苦しければ多くの人は病院に行くでしょう。けれども、違う箇所なら何となく様子を見ようと思ってしまいますよね」

「たとえば『昨日ゴルフをしたから今日は肩が痛い』などであればいいのですが、痛くなる理由がないのに突然痛みが起きたときに注意が必要なんです。突然発症の痛み、加えて人生最悪の痛みに関しては、たとえ血圧などが安定していても緊急受診すべきといわれています」