このような突然死の場合、不整脈で亡くなったと推測される所見しかなく、ほかに明らかな病気の所見は認められないことがほとんどです。働き盛りの人なので、ご遺族が労災の申請をすることが多く、その場合は法医学者が申請書類の作成を請け負うこともあります。

解剖しても病変なしの健康体
なのに心臓は悲鳴をあげた

 労災が認定されると、過重労働によるストレスで亡くなったことが認定されますので、次はご遺族が企業を相手取って損害賠償請求の民事裁判を起こします。その際、ご遺族が生前の勤務状況やタイムカードの記録などを持ってきて、「ちょっとみてご意見をいただけませんか?」とお願いされることもあります。

 目を通してみると、多くの人が亡くなる直前まで「不規則に忙しい」状態だったことがわかります。結果論でしかありませんが、やはり過重労働や不規則な働き方は心身に相当ストレスを与え、場合によっては死につながることもあるのではないかと考えています。

 過去に、30代で突然死した男性のご遺体を解剖したことがあります。その方は、持病もなく元気な方でしたが、自室で亡くなっているのが発見され、私のところに運ばれてきました。解剖しても何の病変もありません。先にも述べた、働き盛りの青壮年男性が不整脈で突然死する「ポックリ病」であると推測されました。

 聞くと、この方は遠洋漁業の漁師さんだったとのこと。数カ月にわたる航海をしながら、魚群がみつかれば、たとえ仮眠中でも起き出して魚を獲るのが仕事です。海の上での長時間労働、不規則な生活、短い睡眠時間などが影響したのでしょうか。解剖所見からはうかがい知ることはできませんが、過酷で不規則な生活が自律神経の乱れを起こし、不整脈を起こしたのではないかと判断しました。

 ストレスから受ける心身のダメージは人によって違います。心の不調が身体の不調につながることもあるので、「体調がすぐれない」「眠れない」「朝起きられない」「食欲がない」「イライラする」「涙が止まらない」といったことがあれば、迷わず産業医やかかりつけ医に相談することをおすすめします。