怒りでも人は死んでしまう
「憤死」の医学的正体とは?

 私たちは怒ったときにもストレスを感じますが、人は怒ると、心身に相当な負荷がかかります。高血圧を持っている人なら、それが原因で病気を発症し、突然死につながることもあります。

 世の中には激しく怒っている最中に死ぬ人もおり、私も何度か解剖しました。怒鳴り散らしていた高齢者が心肺停止となったケースや、飲食店にクレームをつけている最中に急死したケースなどです。

「憤死」という言葉がありますが、法医学に「憤死」という用語はありません。ただ、心因的に興奮すると、自律神経の一種である交感神経が過度に活発になって血圧が上がります。そのため、動脈硬化症を持っている人は虚血性心疾患や脳血管疾患を発症して死に至ることがあります。

 すでにお話ししたとおり、動脈硬化症は血管が硬くなり、血圧が上昇する病態です。無症状で進行しますが、動脈硬化と心肥大の悪循環によって心臓に負荷がかかります。

 そういう人が激高すると血管が収縮して脈拍が速くなります。いわゆる「頭に血がのぼる」状態です。すると、血液の循環がうまくいかなくなり、心筋梗塞(こうそく)を引き起こします。

 脳に動脈瘤(りゅう)があれば、それが破裂してくも膜下出血や脳内出血を引き起こすこともあるのです。私が解剖したケースも、まさにこれでした。憤死の正体は、虚血性心疾患や脳血管疾患だと言えるかもしれません。

言い争いの最中に倒れた若い男性
それは本当に事故だったのか

 憤死に関連して言えば、「言い争っている最中に相手が意識を失って亡くなった」「怒鳴り散らしている最中に倒れた」というケースも時々解剖になります。その場合、必ず相手がいますので目撃証言があるわけですが、相手方が「何もしていないのに、突然この人が倒れた」と言っていても、人にみられていないところで手を出している可能性があります。

 そのため、傷害致死の可能性もあるということで解剖に回るケースがあり、私のところでも担当することがあります。