『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第16話『痣』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。
母の死後に知らされた、顔の火傷の「秘密」
放火の罪で少年院入院となった荒井路彦(仮名)は、IQは低くはないものの発達の特性から、認知機能の弱さや自己理解の難しさがあったり、場の雰囲気を読むことが苦手で、非行についての内省もなかなか進みません。
六麦との面接でも反省していると答えるものの、表層的で深まりも見られません。このような少年にはどういった教育が効果的なのでしょうか。
法務省矯正局では「被害者の視点を取り入れた教育」を行っており、自らの非行がもたらした被害の重大さや被害者の置かれた状況を理解し、被害者やその家族への謝罪の気持ちを高め、誠意ある対応を考えることを目的としています。
この教育の一環として、実際に被害者家族を少年院に招き、体験を語ってもらうことがあります。著者も少年たちとともに講演を聞いたことがありますが、息子をリンチ被害で失った母親が涙ながらに語る無念の思いは、深く心を揺さぶるものでした。
発達上の課題をもつ非行少年たちは、他者の感情を自然にくみ取ることが苦手な場合が多いものの、だからといって被害者の気持ちを理解できないわけではありません。自ら進んで想像することが難しいだけで、被害者の立場に立たせ、感情を具体的に考えさせる工夫をすれば、彼らは十分に理解できることは著者の経験からも感じています。
マンガの中では火事がきっかけで母を失った娘が、自身の体験を語ります。
生前、母の顔には大きな火傷の跡がありました。娘はそれを恥ずかしく思い、一緒に外出するのをためらったり、学校の参観にくるのを拒んだりしてきました。
音楽祭の日、離れた場所でマスクをして聴いている母を見つけ、娘はうれしさを感じながらも、帰宅後に「みんなに見られたらどうするの!?」と母を責めてしまいます。それを聞いていた父親は娘をたしなめます。
「お母さんの顔の痣(あざ)はお前を助けるためにできたものだ」
かつて自宅が火事に巻き込まれ、生後間もない娘を助けるために母が命がけで行動し、その時に負ったのが顔の火傷だったのです。しかし、母は自ら事実を語ることなく娘の無事と成長だけを心から喜んでいました。母の死後、その火事は実は少年による放火だったと父から告げられます――。
この話を聞いた路彦は、自分の境遇を重ね、自分の起こした事件の重さについて初めて実感することができたのです。
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社







