スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。

日本において「東証100億円問題」はスタートアップにどう影響するか?Photo: VTT Studio/Adobe Stock

「東証100億円問題」の3つのポイント

 2025年9月、東京証券取引所はグロース市場の上場維持基準を「上場10年経過後に時価総額40億円以上」から「上場5年経過後に時価総額100億円以上」に引き上げる案を発表した。

 この「東証100億円問題」がスタートアップ業界に与える影響を3つのポイントでまとめる。

1. 成長戦略の根本的変革
(年平均30~40%の高成長が必須条件に)

 新基準は上場後5年で100億円という目標により、これまでの漸進的成長戦略では対応不可能な水準の成長を要求している。

 スタートアップは上場前から機関投資家を意識し、収益性と成長性を両立させたサステナブルなビジネスモデルの構築が急務となった。リカーリング収益の確保(継続的・安定的に収益を確保すること)、プラットフォーム化、技術優位性を活かした差別化など、持続可能な競争優位性の構築に重点を置いた戦略的経営への転換が不可欠である。

2. 市場選定の戦略的思考転換
(より大きなTAMが前提に)

 100億円の時価総額達成には、ニッチ市場での確実な収益確保から、より大きなTAM(Total Addressable Market/獲得可能な最大市場規模)を持つ市場への展開が求められる。

 特に国内市場だけでは限界がある領域では、製品開発段階からのグローバル仕様採用、多言語対応、現地パートナーシップ構築などが成長戦略の必須要素となる。

 自社の競争優位性と市場特性を正確に分析し、100億円企業への明確な道筋を描くことが重要だ。

3. Exit戦略の多様化とM&A市場活性化
(IPO中心からM&A重視のエコシステムへ)

 従来の日本の8割IPO・2割M&Aという構造から、アメリカの1割IPO・9割M&Aに近づく可能性が高い。

 IPOを目指す企業には、より厳格な準備が必要となる。

 一方でM&A市場の活性化により新たな選択肢が生まれている。100億円規模に成長しきれない企業の買収機会や、非上場株式のセカンダリーマーケットの整備により、より柔軟な資本戦略とExit戦略が可能になりつつあるといえる。

(本稿は増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。