将来的に5人に1人がなると言われている「認知症」。運や遺伝によってなると考える人も多いが、じつは意外な習慣によって、そのリスクを高めてしまうことがわかった。その影響は20代から始まっているとも言う。
その事実を紹介したのが、オックスフォード大学の研究員として世界的難病の治療法の発見に貢献し、現在は医師としても活躍する脳と糖の専門家である下村健寿氏の著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』だ。認知機能を崩壊させる「黒幕」の正体や、そのメカニズム、そして脳を守るための習慣を紹介した同書から、一部を抜粋・編集し紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

【医師が教える】認知症の予防として「あまりオススメしない習慣」・ワースト1Photo: Adobe Stock

「記憶力を鍛える」ことは、認知症予防に有効なのか?

「最近、物忘れがひどい」
「名前がすぐに出てこない」
「昨日のことが思い出せない」

 そう感じたとき、多くの人は「記憶力を鍛えなければ」と考える。

 電話番号を覚える。
 漢字を暗記する。
 歴代総理大臣の名前を覚える。

 こうした“脳トレ”を始める人も少なくないだろう。

 しかし、元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家である下村健寿氏は、著書『糖毒脳』で、こう指摘している。

 それらには特定の記憶スキル、たとえば一時的な情報を保持する短期記憶や、特定の事柄を思い出す想起能力を一時的に向上させる効果はあるかもしれません。
 しかしこれは、筋力トレーニングで特定の筋肉だけを鍛えるようなものです。

――『糖毒脳』より引用

 そして、こう続けている。

 記憶術や暗記訓練といった特定の能力を使うトレーニングが、脳全体の広範な認知機能の根本的な改善や、アルツハイマー病などの認知症の予防に直接結びつくという科学的なエビデンスは、現在のところ乏しいのが実情です。
――『糖毒脳』より引用

 つまり、「たくさん覚えること」が、そのまま認知症予防になるわけではない。

“覚える訓練”だけでは脳は守れない

 なぜ、「たくさん覚える」ことは脳の機能向上につながらないのか。

 その理由を、下村氏はこう説明している。

 たとえば特定の記憶術や暗記訓練などは、「いかに効率よく情報を覚えるか」の一点に特化しており、その技術を習得することで確かにその分野でのパフォーマンスは向上すると思われます。

 訓練した特定の課題での能力は高まるものの、他の認知機能全般に波及する「転移効果」はほとんど期待できないことが、多くの研究で示されています。
――『糖毒脳』より引用

 腕だけを鍛えれば全身が健康になるわけではない。

 それと同じで、記憶だけを鍛えても、脳全体の機能が高まるとは限らない。

 このことは、すでに科学者たちによって解明されてきたそうだ。

 これは「訓練特異性」と呼ばれる現象です。特定の学習によって得られた能力を別の場面で応用するために転移できるのは、それぞれの課題や状況の間に共通の要素がある場合に限られるのです。
 この事実は心理学者のエドワード・ソーンダイクらによって20世紀の初頭から指摘されていました。1つの能力を習得しても、それが別の脳の活動をよくすることはまずない、ということです。

――『糖毒脳』より引用

 電話番号を覚えるのが上手くなっても、新しい環境に適応する力や、問題を解決する力が高まるわけではない。

 テニスの素振りをいくら繰り返しても、それが野球のバッティングに直接役立つわけではないのと同じようなものなのだ。

(本稿は、『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容を引用して作成した記事です)

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。