将来的に5人に1人がなると言われている「認知症」。運や遺伝によってなると考える人も多いが、じつは意外な習慣によって、そのリスクを高めてしまうことがわかった。その影響は20代から始まっているとも言う。
その事実を紹介したのが、オックスフォード大学の研究員として世界的難病の治療法の発見に貢献し、現在は医師としても活躍する脳と糖の専門家である下村健寿氏の著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』だ。認知機能を崩壊させる「黒幕」の正体や、そのメカニズム、そして脳を守るための習慣を紹介した同書から、一部を抜粋・編集し紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
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「健康に気をつけている」だけでは防げないリスク
食事に気をつけている。
運動もしている。
睡眠も十分にとっている。
いつまでも健康でいるために、生活に気をつけている人は多いだろう。
だが、これだけ気をつけていても防ぎ切れないのが「認知症」というリスクだ。
元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家である下村健寿氏は著書『糖毒脳』で、認知症リスクを大きく左右する「ある遺伝子」について解説している。
晩発型アルツハイマー病の発症リスクを高める遺伝子はいくつか知られていますが、なかでもとくに注目されているのが「APOE(アポイー)」という遺伝子です。
――『糖毒脳』より引用
この「APOE遺伝子」という設計図をもとに体内で作られるタンパク質が「アポリポタンパク質E」だ。
APOE遺伝子に記されているアミノ酸配列には個人差があり、そのわずかな違いによって、完成するアポリポタンパク質Eは「アポリポタンパク質E2」「アポリポタンパク質E3」「アポリポタンパク質E4」の3種類に分かれるという。
私たちは、父親と母親からそれぞれ遺伝子を1セットずつ受け継ぐため、すべての遺伝子を2本ずつ対で持っている。
APOE遺伝子も例外ではなく、各個人が1対、つまり2本のAPOE遺伝子を持っている。
3種類あるAPOE遺伝子を誰もが2つ持っているということは、その遺伝子(設計図)によって私たちの体内で作られるアポリポタンパク質Eの組み合わせは次の6パターンがあります。
① E2/E2
② E2/E3
③ E2/E4
④ E3/E3
⑤ E3/E4
⑥ E4/E4
調査によると、6つのパターンは均等に作られるわけではなく、「④E3/E3」の組み合わせを持つ人が最も多いことがわかっています。
――『糖毒脳』より引用
そして、この組み合わせによってアルツハイマー病の発症リスクが異なる。
認知症リスクが「30倍」になる遺伝子の存在
『糖毒脳』には、こう書いてある。
「①E2/E2」または「②E2/E3」の組み合わせを持つ人がアルツハイマー病になるリスクは、「④E3/E3」の人とほぼ同じです。
しかし、E4の遺伝子が入ってくると、状況は劇的に変わります。
――『糖毒脳』より引用
たとえば、最も多い「E3/E3」を基準にすると、
「⑤E3/E4」を持つ人は約5・6倍。「⑥E4/E4」になると、そのリスクはなんと33・1倍に跳ね上がります。
――『糖毒脳』より引用
33倍。
この数字は、あまりにも衝撃的だ。
しかも、その違いを生んでいるのは、大きな欠陥ではない。
アポリポタンパク質E4と、他のE2やE3との違いは、驚くべきことにアミノ酸がたった1個異なるだけです。
――『糖毒脳』より引用
たった1個。
それだけの違いが、脳の未来を大きく左右する。
「遺伝だから終わり」ではない
なぜ、そんな小さな違いで大きな差が生まれるのか。
それは、この遺伝子が、脳のゴミ処理に深く関わっているからだ。
アポリポタンパク質Eは、アルツハイマー病の主な原因と考えられているアミロイドβの排出を促進する、非常に重要な役割を担っています。この重要なタンパク質を構成するアミノ酸がたった1個異なってしまうと、アミロイドβが脳からうまく排出されなくなり、結果として脳内に蓄積してしまうのです。
――『糖毒脳』より引用
認知症リスクが30倍になる恐ろしい遺伝子。
ただし、ここで絶望する必要はない。
遺伝子は「リスク」を示すものであって、「運命」ではない。
生活習慣によって、その差を小さくできる可能性はある。
だからこそ大切なのは、自分は大丈夫と思わないこと。
脳を守る習慣は、症状が出る前から、誰もが始める必要があるのだ。
(本稿は、『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容を引用して作成した記事です)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。








