きれいな計画ほど危うい

 今回の指針の中心にはかなり明確な思想がある。

 経営戦略に基づいて将来必要な人材像を描き、現状とのギャップを把握し、必要な施策を整理して優先順位をつける。王道の計画論である。実際、指針には経営戦略上の重要項目から「あるべき組織・人材の姿」を定め、それに必要な人的資本投資を検討する流れが示されている。

 この考え方は、市場や職務の変化が比較的ゆるやかな時代には有効だった。だが、生成AIの興隆が、この前提を揺るがしている。ほんの2、3年前には増やすべきだと言われていた職種やスキルが、AIに代替されつつある。資料作成、調査、要約、分析、コード生成など、ホワイトカラー業務の広い領域で、仕事の中身が変わり始めている。しかも変化は、年単位ではなく、月単位で進んでいる。

 今、企業に起きているのは、人材不足というより、人材計画の前提崩れである。必要だと思っていた役割の意味が変わり、想定していたスキルの希少性も変わる。すると、計画を精緻に作るほど修正コストが高くなる。

 以前は「計画の粗さ」がリスクだった。しかし今は、「計画の精緻さ」がリスクになりうる。

 計画が不要だと言いたいわけではない。だが、AI時代に重要なのは、将来像を細かく描く力より、前提が変わったときに組み替えられる力である。にもかかわらず、この指針は全体として「より丁寧に描き、整合的に示し、可視化する」方向に重心がある。その点に、時代とのズレがにじんでいる。

リスキリングは必要だが、「何を学ぶか」が難しい

 指針は生成AIの進展によってスキル需要が大きく変わることにも触れ、リスキリングの重要性を強調している。

 この認識自体は正しい。ただ、問題はその先にある。リスキリングという言葉は便利だが、大事なのは「学び直せ」という一般論ではなく、「何を学ぶのか」である。しかもそれが見えにくくなっている。

 少し前でなら、IT、データ分析、プロジェクトマネジメントといった言葉で、ある程度の方向感を示せた。実際、指針でもそうした専門スキルの重要性を指摘している。しかし、生成AIはその図式を崩している。