政府の指針は時代遅れ…「人的資本を可視化する企業」が背負う〈大きな代償〉写真はイメージです Photo:PIXTA

企業が人材の価値を競争力として投資家等に開示する際のガイドラインである「人的資本可視化指針」の改訂版が3月に公開された。この指針がAI時代に持つ意味とは何だろうか。この指針について考えることで、今後必要となる人材の要件が明らかになり、われわれが今後どのような能力を身につけなければならないかという問いの答えも見つかるだろう。(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)

まるで戦艦大和?人的資本可視化指針

 2026年3月に改訂された政府による「人的資本可視化指針」は、経営戦略と人材戦略を結びつけ、人的資本投資を可視化し、投資家や労働市場との対話を深めようとする方向を示す文書である。

 全体としてはよく整理されており、あるべき組織・人材の姿を描き、現状とのギャップを埋める人材戦略や投資を進める流れが明快に示されている。

 ただ、この文書を2026年の生成AI時代に読むと、どうしても違和感が残る。第2次世界大戦中、航空機主体の戦闘に移行が進む中で起工されたため、当時の日本の最先端技術の粋を集めて建造されたにもかかわらず、4年後の完成時にはすっかり時代遅れになってしまった戦艦大和を思わせないでもない。

 問題は、人的資本の扱いが、「予測可能な未来」を前提にしている点にある。人的資本をめぐる議論が大きく盛り上がった2022年から23年の状況が変わっていないのであれば、この指針はきわめて自然だろう。だが、その後に起きた生成AIの進展は、仕事の定義そのものを揺らし始めている。

 すなわち、そもそも、「どのような前提で人材戦略を構想するのか」、「その前提自体がまだ有効なのか」という問いこそが問われるべきなのである。

 今回の指針がなぜ、現状とずれて見えるのかを以下3点の切り口で考えたい。第1に、計画論そのものがAI時代には通用しにくくなっていること。第2に、リスキリング論が思った以上に不安定な前提の上に立っていること。第3に、人を「資源」として捉える発想が、かえって企業の魅力を損ねる可能性である。