映画監督・脚本家 長久允氏の著書、『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』の刊行を記念したトークイベントが高円寺の蟹ブックスで開催された。
ゲストに迎えたのは、作家・演出家の山田由梨氏。「ぜんぜんダメでパーフェクトなわたしたち、にしか書けないけれど世界に通用してしまう物語の作り方」をテーマに、2人に共通した創作における倫理観が語られた。(文/飯室佐世子)

脚本の教室

示し合わせていないけれど、「基本理念は一緒」

長久允(以下、長久):山田さん、お久しぶりです! 山田さんのエッセイ『ぜんぜんダメでパーフェクトなわたしたち』、僕これ大好きなんですよね。

 僕の本と山田さんの本、基本理念が一緒ですよね、別に示し合わせてないんですけど。

山田由梨(以下、山田)たぶん、持っている倫理観がかなり似ているんじゃないですかね。

 長久さんには、私が主宰している劇団のイベントに来てもらったんでしたよね。制作段階の脚本をお客さんと一緒に読みながら、演劇のクリエーション段階を公開していくというイベントで、脚本パートに参加してもらって。

長久:そうそう。本当に書きかけの脚本を公開して、「これどう進んでいくの」みたいなことを話す、あんまり見ないイベントだった。

山田:それから、なんとなく脚本ができるとお互い送り合ったりしている、そんな仲です。

長久:そうそう、脚本の話ばっかりしているよね。なんか、シンパシーを感じるんです。
 これはもう、友だちと言っていいのではないか。

山田:そうですね(笑)。なぜ我々が友になれるかというと、同じように社会に向けて伝えたいことがあって、戦っている同志だから、な気がしていて。仲間って思える存在なんだと思う。

2人の創作は、「エシックス」に満ちている

脚本の教室

山田:そうそう、それで、『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』の話なんですけど。読み終わっての感想は、「長久さんに映画があってよかった」でした。

長久:ぁあ、たしかに。

山田:本には、長久さんが32歳で映画を撮り始める前の話も書かれていて、当時は坊主頭にスーツ姿だったと。
 それから紆余曲折あり、こういう仕上がりになるわけですけど。

長久:(笑)。

山田:意外に、王道の脚本の書き方がちゃんと書かれているんですよ。
 で、続けて長久メソッドが書かれているんですけど。これ、誰でも書けるか!? と(笑)。

長久:だいぶ、ぶっ飛んではいるよね、登場人物になりきって、ファミレスとかで泣きながら書いてるからね。危ない。

山田:そこまで没頭できるものに出会えるっていうのがすごいんですけど。
 でも肝はやっぱり、その人が作る必要が絶対にあるもの“だけ”を作るってところだなって思った。エッセイも、そうありたいなと思っていて。

長久:おお、嬉しい。

山田:それと、脚本はセラピーでもあるっていう結び。これが完全に、「あなたは私ですか?」って思った。
 私にとってもエッセイを書くことは、自分の人生や恥ずかしくて嫌だったことを俯瞰で面白がれる手段だと思っているから。

長久:山田さんのエッセイには、それを感じます。

山田:長久さんに脚本を読んでもらった時に、「これには山田さんのエシックス(倫理)が詰まってる」っていう言葉をもらったことがあるんです。
 こっちこそ、長久さんの脚本を読むと、いつもエシックスに満ちてるって思う。作るものに嘘がない

長久:ウケそうだなって思えるそれっぽいものは、作りたくないんですよね。

山田:最初に2冊の本の基本理念が一緒って言ったのは、おそらくそういった倫理観だなと。

 そして、脚本は脚本家だけのものじゃないし、エッセイもエッセイストだけのものじゃない。誰もが書いていいし、それこそが面白いんだ! って本気で信じている。

荒くれ者だけど、めちゃくちゃ真面目

長久:この本を読んでくださった皆さん、全員に脚本を書いてもらいます!!

会場:(笑)。

山田:長久さんは、脚本の書き方を聞くと、「どーんどーんどーん! って書いて、ばーん! って並べてる!」って言うんですけど、本当はめちゃくちゃ細かい技術を使って書いてるって、脚本を見ていて思いますからね。

長久:伏線回収したりしてるしね。

山田:それを、今日この場に来てくれた人にだけは言いたかった(笑)。

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長久:ああっ! まだ荒くれ者としてかっこつけたい(笑)。
 でも確かに、みんなに書いてほしいって本気で思ってるから、本の中ではなるべく書き始めるハードルを下げたつもりです。

山田:うんうん。

長久:創作における自分のルールはあるし、脚本を見直す時は1人目のお客さんになったつもりで、「はい、この相槌邪魔」「はい、このシーン邪魔」って、削ぎ落としたりはしている。

山田:ですよね? 勢いだけではない、長久さんの脚本には無駄がないんですよ。全て必要なものが並んでるから。

長久:うん、全部伝えたいことだから。一見無駄なように見えるものがあったとしても、「マジでそれを伝えたいんじゃ」って本気で思ってるから。

山田:その作り方も、この本には詰まってる。
 脚本をまだ書いたことがない人が、スタートを切るために必要なことが全部書いてあると思う。

誰かを傷つけるなら、「面白くなる」は選ばない

脚本の教室

山田:いま公開中の映画『炎上』も拝見したんですけど、それにも同じことを感じたな。

長久:ほんとに。

山田:トー横キッズを題材にした映画ですよね。演劇と比べて映画って人もお金も集めるの大変だし、とすると、商業的な物語として、もっとウケるようにというか、脚色してもっと涙を誘うような作り方をする選択肢もあったわけじゃないですか。

長久:うーん。脚色しないことで目減りする何かがあったとしても、このチョイスしか誠実さを保つにはできないんじゃないかっていうところにたどり着いた。

山田:ともすると、社会問題を消費するだけの映画になってしまう危険性もあった中で、そうならないための選択をちゃんとしてた。それが、すごいなって思いました。

長久:スタートが「映画を作りたい」じゃなくて、「メディアで見るトー横の子たちって、メディアで切り取られるような感じなんだろうか?」っていう疑問から始まったからなあ。
 実際にトー横の子たちと話すたび、キラキラなものに目が向いているなって思って。

 だからなんか、ただ僕が派手な映像が好きというわけではなくて、あの子たちを映画にするとなった時に、ただ暗い映像は違うんだよなって思ったんですよね。

当事者ではないことを描く怖さ

山田:長久さんって、自分が当事者じゃないことを題材にするじゃないですか。今回の『炎上』も。

長久:そうですね。たまに思う。なぜこんなおっさんが、ティーンエイジャーの女の子を描いているんだろうと。
 でもね、自分が当事者になれる中年男性のための映画を作ろうとは思わないんだよなぁ。

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山田:当事者性のないことを描くのって怖くないですか? って質問が会場から来たんですけど。怖くないですか?

長久:怖い。それはエッセイと映画の違いもあるかもしれないですよね。
 エッセイは実名で出すと「その人の意見である」って直結してしまうけど、映画はエンタメに昇華しているから、必ずしも映画監督の意見には直結しない気がしていて。

山田:あぁ、確かに。

長久:ただ、あまりこういう言い方はしたくないんだけど、脚本に書く時は、当事者とお話をしてその方々の気持ちになりきろうと思って書くわけじゃない。

 だから、その責任を持てない限りは、軽率に始めない
 そして、気をつけなきゃいけないと気づけたことは、すべて気をつけてる

山田:自分の中で、「これはもう映画にせざるを得ない」ってなっている題材だから、やるしかないのであると覚悟を決めて。

長久:そう。そこまで思えるテーマに出会えたなら、目を瞑ってでも走り切る。
 やっぱり、すごい踏み込んではいるから、何があるかわからなくて怖いけどね。

山田:だから、作品に説得力があるんだ。
 嘘のない言葉を書くことと、気をつけながらも踏み込んでいくこと。それは勇気だと思います。創作するために大切なのは、エシックスと勇気。

長久:日常で獲得できる倫理観を、最大限につかめるようにしていなければならないなと思う。
 目を瞑って走っていても、倫理観だけは手放さないようにしたいですよね。

怒りから発し、ユーモアで手渡す

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山田:本の中で、長久さんの創作は「怒り」が1つのキーワードになるって書かれているじゃないですか。
 何かしらの怒りがベースにあって、それに対して自分がどう折り合いをつけるかっていうモチベーションで走らせるって本にも書かれていて。

長久:うんうん。

山田:私も同じタイプなんですよ。社会課題に対してとか、何かでかいものと戦うっていうモチベーションで、作品を作っていることが多い。

 でも、長久さんの作品を見た時に、第一感情が怒りだって感じることないんですよね。

長久:確かに。怒りから発することではあるけど、怒りのままアウトプットすることは少ないかも。
 僕は音楽やお笑いも好きな人間で、ユーモアが自分の最上位表現だと思っているので、ユーモアを織り交ぜながらになっている気がする。

山田:怒りをそのままボンってアウトプットしても、見る人たちはそれに興味がない状態でくるから、受け取ってもらえないんですよね。

 その題材についてまったく考えたこともない平熱の人たちが、私たちと同じ沸点で怒れるための階段をつくらなきゃいけない。それが、物語の構成だったり、主人公の造形だったり。

長久:山田さんは、きちんと段階を踏んで伝えてくれるよね。
 僕はコンペイトウの形にして渡してる。見終わった後に、「あ、なんだこれ?!」ってなってほしいんだよね(笑)。

(終わり)

山田由梨(やまだ・ゆり
作家・演出家・俳優
立教大学在学中に劇団「贅沢貧乏」を旗揚げ。全作品の作・演出を務めるほか、ドラマ脚本・監督、小説・コラム執筆も手掛ける。『フィクション・シティー』(2017年)、『ミクスチュア』(2019年)で岸田國士戯曲賞ノミネート。セゾン文化財団セゾン・フェロー I。主な担当ドラマに、AbemaTV「17.3 about a sex」「30までにとうるさくて」脚本。NHK夜ドラ「作りたい女と食べたい女」脚本。WOWOW「にんげんこわい」シリーズでは脚本・監督として参加。Podcast「山田由梨の眠れないなら茶をのんで」がSpotify等で配信中。