また、戦時下のロシアでは戦死者が「英雄」として祭り上げられ、立派な墓地も作られている。自分の暮らす地域から多くの兵士が戦地に赴き、「貨物200」(編集部注/旧ソ連諸国や現在のロシア軍において、戦場から輸送される戦死者の遺体を指す軍事用語・暗号名)となっていることは隠されていない。

 それにもかかわらず、ロシア軍に入隊する人々の数は、どうやらあまり減っていない。

 2023年には54万人以上が入隊したというショイグ国防相による発言は誇張であるようだが、それでも毎年35~40万人程度が入隊しているらしい、ということはロシア連邦予算の支出状況に関する分析からも裏付けられている。

 では、人々が命の危険を犯してまで契約軍人に志願する理由はなんなのだろうか。

 アニカ・ビネンジーク(編集部注/アメリカのシンクタンク「ランド研究所」などに所属する政治学者・国防分析官)らが各種の社会調査に基づいて述べるところによれば、ロシアの若者たちが契約軍人に志願する動機は、職業的な利益(occupational benefits)に関わるものと制度的な利益(institutional benefits)に関するそれに分けられる。

 前者の中核は住宅提供、給与、優先的に高等教育を受ける機会、家族への保障といった有形の利益であり、後者を構成するのは秩序と規律、愛国心、軍務の威光といった無形の利益である。

手厚い待遇と戦死補償が
地方出身兵士の心をつかむ

 興味深いのは、小都市・地方・貧困層出身者が重視するのは前者であり、モスクワ出身者は後者を重視する傾向が見られた、という点だ。

 この事実を、戦死者に占める地方出身者の圧倒的な多さと併せて考えるなら、ウクライナで戦っている契約軍人たちの動機はかなりの程度まで実利的なものである、という推測が成り立ちそうである。

 以上を定量的に裏付けるデータは存在しないが、開戦以降、契約軍人の給与がウナギ上りに増加してきたことは事実として確認できる。

 開戦前には月額11万ルーブルほどであったものが、2025年時点では21万ルーブルとほぼ倍に跳ね上がっているのである。同じ年の全国平均所得(約7万5000ルーブル)と比較すると3倍弱にも相当する高給だ。

 しかもこれはあくまでも最低限の基本給である。機関銃手や操縦手のような技能職種には追加の手当が付くし、小隊・中隊・大隊の指揮官を務める将校たちの給料はそれよりもさらに高い(表7)。

 ビネンジークらのいう「職業的な利益=有形の利益」を手厚くすることが兵士や下級指揮官を確保する手段になっている、ということが以上からは窺われよう。「制度的な利益=無形の利益」のほうが重視されているのであれば、契約軍人たちの給与をこうも値上げする必要はなかったはずである。

 そして、彼らの死に国家が報いる方法はやはりカネである。戦場で負傷したり命を落とした兵士の家族には、国防省から高額の補償金が支払われる。