なぜプーチンは“攻めずにいられない”のか?ウクライナ侵攻を正当化する“歪んだ被害者意識”とはウラジーミル・プーチン大統領 Photo:SANKEI

2022年2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻し、戦争が始まった。アフガニスタン侵攻やチェチェン戦争など、ロシアの先制攻撃によって引き起こされた戦争は枚挙にいとまがない。では、なぜロシアは国際社会から強い批判を受けることが確実な行動をあえて取ってしまうのか。2人の専門家が、その危険な意思決定プロセスを明らかにする。※本稿は、東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉 悠、日本大学危機管理学部教授の小谷 賢『戦闘国家 ロシア、イスラエルはなぜ戦い続けるのか』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。

“格上”と戦争してきた歴史が
ロシアに先制攻撃を選ばせる

小谷賢(以下、小谷):ロシアの国内状況やインテリジェンス体制を念頭に、ここではロシアの根本的な思想や周辺国との関係に目を向けてみましょう。

 2022年から始まったウクライナ戦争もそうでしたが、ここ半世紀を振り返ってみてもアフガニスタン侵攻(1979年)をはじめチェチェン戦争(1994~96年、1999~2009年)、グルジア(現ジョージア)侵攻(2008年)、クリミア併合(2014年)など、ロシアには「先制攻撃」「先手必勝」といった特性があるように思えます。小泉先生から見てどうでしょうか。

小泉悠(以下、小泉):たしかにロシアの軍事思想は、先制攻撃を非常に重視しているように思えます。考えられる理由の1つとして、歴史的にロシアが経験した大きな戦争では相手が優勢であった場合が多いことがあります。

 19世紀初頭にロシア帝国がナポレオンと対峙したとき、フランスはヨーロッパの最先進国でした。その後のクリミア戦争でも、オスマン帝国を支援した英仏の技術力はロシアを圧倒していた。