一方、ロシアの侵略に目をつぶってエネルギーや武器を購入し、あるいは工作機械を売る国は少なくない。
こうした振る舞いをしたたかなマキャベリズム(編集部注/目的達成のためには手段を選ばず、非道徳的・冷酷な行為であろうと正当化する思想や行動様式)と見て、日本も倣うべしという声は小さくないが、それはどれだけの覚悟を伴ったものだろうか。
将来的に日本が武力紛争に巻き込まれるとするならば、そこには中国が関与している可能性が高く、その存在感はエネルギー大国ロシア以上のものであろう。
こうした声が称揚するマキャベリズムは「日本は可哀想だが国益のために中国との商売は続けさせてもらう」という形で我が国にそのまま跳ね返ってくるはずであり、それは単独での防衛が難しい我が国にとって致命的なものとなる可能性がある。
マキャベリズムそれ自体は否定されるものではないにせよ、そこで発揮される狡猾さは短期的な利益の追求ではなく、より長期の戦略的な利益を織り込んだものでなければならない。
この意味では、ロシアに対する制裁は一層強化されるべきであるし、日本の友好国がロシアに戦費や軍需工業能力を提供しないための積極的な働きかけも求められよう。
共同通信の杉田弘毅特別編集委員が提案するように、自国製品が転売されて悪用されることを防ぐために米国が施行している外国直接製品ルール(FDPR)のような制度を欧州やアジア諸国と共同で構築していくことは、1つの方向性として有望であると思われる。
北方領土をエサにして
踊らされた安倍晋三
それでは北方領土問題がいつまで経っても解決しないではないか、という反論もあろう。しかし、安倍政権があれほどまでに注力してもなお、ロシアからは何の妥協も引き出せなかったことは忘れられるべきではない。
特に2018年11月にシンガポールで行われた日露首脳会談後、安倍晋三首相は「日ソ共同宣言を基礎として交渉を加速することで合意した」と述べ、歯舞・色丹の二島返還で問題の解決を図る姿勢を示唆していたが、ロシアは一切応じる気配を見せなかった。
歯舞・色丹は北方領土全体の7%を占めるに過ぎず、これ以上の妥協は日本にとって不可能であるにもかかわらず、である。
理屈の上では北方四島の全放棄というオプションもあるが、これはロシアの不法占拠を丸呑みするだけのことであって、交渉として意味をなしていない。
そして、これ以降のロシアは、そもそも領土問題の存在自体を認めないとの姿勢を貫いてきた。
『現代戦争論――ロシア・ウクライナから考える世界の行方』(小泉 悠、筑摩書房)
こうした状況下で日本側から交渉を持ちかけたところで、安倍政権期には見られなかったようなブレイクスルーが生まれると考える根拠は希薄であろう。
また、G7の一角を成す日本が、ロシアによる侵略の終結を待たずして領土交渉に乗り出した場合、日本は西側の結束を乱すことができる「弱い環」であるとの誤ったメッセージを発することになりかねない。
実際、安倍政権下で国家安全保障局長を務めた谷内正太郎は、平和条約締結の条件として在日米軍を撤退させるようパトルシェフ国家安全保障会議書記から求められたことを明らかにしている。領土問題という国家の主権問題をダシに、同盟選択という別の主権問題に容喙を許すようで本末転倒である。
この意味でも、北方領土問題が日本に対する政治的カードたり得るとの認識をロシアに与えるべきではないし、そのためにはロシアとの領土交渉は当面、凍結されるべきである。







