一度発表した受賞結果が覆されるのは、もちろん初めての出来事。奇しくもこの珍事は、“出来レース”疑惑の絶えなかったアカデミー賞が、“ガチの勝負”であったことを証明することになったのです。

 アカデミー賞の歴史に残るであろうこの珍事が衝撃的だったのは、映画ファンも会場の映画人たちも『ラ・ラ・ランド』の受賞が順当だと感じていたからだと思います。『ラ・ラ・ランド』は、ハリウッド黄金期のミュージカル映画への敬愛や技巧的な撮影技術が評価されただけでなく、昨今「この曲を聞けばこの場面を思い出す」というような映画音楽が少なくなっていた中で、映像と音楽がマッチしたという点でも観客に受け入れられた作品でした。

『ラ・ラ・ランド』は、3000万ドルの製作費に対して北米で約1億5000万ドルを稼ぎ出し、日本でも約44億2000万円の興行収入を記録しました。一方の『ムーンライト』は、150万ドルの製作費に対して北米では約2700万ドルの興行収入をあげています。

 どちらの作品もハリウッド映画としては低予算の作品に該当するものの、“今もなおより多くの映画ファンに観られ、より知名度の高い映画”は、『ラ・ラ・ランド』の方であることに疑いはないと思います。

オバマを巻き込んだ筋書きも
ふたを開けてみれば覆される

 ハリウッドの映画産業は、政治の世界とも密接に繋がっています。ハリウッドが何らかの政治的な意思表示をしていると感じさせたのは、作品賞の発表をホワイトハウスから中継した第85回の授賞式でした。

 プレゼンターは、なんと当時の大統領夫人ミシェル・オバマです。この年の最有力候補と言われていたのは、リンカーン大統領が黒人奴隷解放に対して苦闘する姿を描いた、スティーヴン・スピルバーグ監督の『リンカーン』(2012)でした。大統領選の遊説時、バラク・オバマはリンカーンと同じ経路を辿ることで、リンカーンに対する敬意を表明しています。

 つまり映画芸術科学アカデミーは、リンカーンを敬愛する大統領のいるホワイトハウスから、奴隷解放を行ったエイブラハム・リンカーン大統領を描いた映画にオスカー像を授与することで讃える、という筋書きを画策していたのです。