疲れが抜けない。集中できない。やるべきことはあるのに、思うように動けない――。「もっと体力があれば」と思いながらも、「結局、生まれつきだから」と諦めていないだろうか。だが実は、「体力がない」と感じる人ほど、無意識のうちに「体力を削る習慣」を積み重ねていることがある。しかも、その多くは気合いや根性ではなく、日々の過ごし方を少し変えるだけで改善できる。1万人以上の患者を診てきた医師が、医学的根拠に基づいて執筆した『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から、一部を抜粋・編集しそのヒントを紹介する。

「ちょっと確認」が疲れる原因…体力を削る人が毎日やっている悪習慣Photo: Adobe Stock

思考が中断するだけで、体力は削られる

 メールの通知やチャットのメッセージ、複数の仕事を並行して進めるマルチタスクは、集中を途切れさせ、仕事の流れを乱していく。

 集中が必要な作業は、同時にいくつも進めるのが難しい。そこへ別の用事が割り込むと、集中が途切れるだけでなく、再び元の状態に戻るのに余分な時間とエネルギーが要る

 いわゆるマルチタスクも、実際には複数のことを同時にこなしているというより、脳が作業を次々に切り替えているだけである。切り替えるたびに前の流れを手放し、新しい流れを立ち上げる。この切り替えの負担が積み重なるほど、疲労やミスは増えやすくなる

 このように、集中や作業の流れが繰り返し中断されることで生じる負担を、ここでは「中断の負荷」と呼ぶ。

 中断の負荷は、一時的に気が散るだけでは済まない。思考の流れを途中で断ち切り、再び元の状態に戻るまでに時間とエネルギーを奪う。

 さらに、終わっていない作業が頭のどこかに引っかかったままになり、次の仕事に集中しようとしても、思考の一部がその作業に引きずられやすい。

 こうした気がかりが積み重なるうちに、仕事の精度は落ち、心のゆとりも削られていく。

 中断の負荷を理解する上で大切なのは、中断が起きた瞬間に何が生じ、その影響がどう積み重なるかをつかむことだ。

 いくつかポイントがあるが、ここでは「再開のロス」を紹介しよう。

元の作業に戻るのが難しい――再開のロス

 1つの作業を進めるとき、脳はどこまで終わったか、次に何をするかという流れ、つまり文脈を頭の中に保ちながら動いている。

 通知や呼びかけにより途中で割り込まれると、その流れが途切れ、元の状態に戻るまでに時間とエネルギーが要る。中断の本当の負担は、止められることそのものよりも、元の流れに戻ることにある

 デスクワーク中心の人を対象にした観察研究では、割り込みが入ってから中断した作業に戻るまで、平均で約25分かかったという報告がある。さらにそのあいだに別の作業に移ってしまい、注意が分散していたという(*1)。

 もちろん個人差は大きく、数分で戻れる場合もあれば、集中を取り戻すまでにもっと長くかかる場合もある。

 つまり、「ちょっと確認するだけ」のつもりでも、結果として元の仕事から長く離れてしまうことがある

 中断の後、なぜ脳はすぐに元の流れに戻れないのか。理由の1つは、途切れた思考の道筋をもう一度たどりなおす必要があるからだ。

 研究では、割り込みの後、中断前の文脈を取り戻すために複数のアプリや画面を行き来することがあり、その分だけ再開までに余計な時間がかかっていた(*2)。

 さらに、元の作業が複雑なほど、中断後に文脈を取り戻すのが難しくなり、再開までの遅れが大きくなると考えられている(*3)。

 また、作業の途中で頻繁に中断が入る環境では、「遅れを取り戻そう」として作業のスピードを上げやすい。見た目には早く進んでいるように感じられても、それは効率が上がったというより、中断の影響を埋め合わせるためにペースを上げているにすぎない。そのぶん、ストレスや時間的圧迫感は増えやすい(*4)。

 脳は中断のたび、元の場所に戻る作業をしなければならない。いったん流れが切れると、まず「どこまでやっていたか」を思い出し、画面や資料を見直し、ようやく作業の流れを取り戻す。

 さらに、遅れを取り戻そうとしてペースを上げると、気持ちが急いて余計に疲れる。こうして何度も立ち止まり、思い出し直しているうちに、焦りも重なって、考える余裕が少しずつ減っていく。

 大切なのは、中断そのものを減らす工夫と、中断しても戻りやすい仕組みの両方を先に用意しておくことだ。

 その方法は3つある。

  • ・作業をやめる前に、「次にやる1行」を短く書き残す。これだけでも、再開時に思考をたどりなおす手間が減る
  • ・戻る場所を決めておく。カーソル位置、付箋、ハイライトなどで再開地点をはっきり示しておく
  • ・通知にはリアルタイムで反応せず、一定の時間ごとにまとめて処理する。中断の回数そのものを減らせば、ロスは小さくなる

 こうした作業の切り上げ方と戻り方の工夫が、中断による余分なエネルギーの消耗を防いでくれる。

(本稿は『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から一部抜粋・編集したものです。)

【注釈】
1. Mark G, Gonzalez VM, Harris J. No task left behind?: examining the nature of fragmented work. Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems. 2005 Apr 2;321-30.
2. Iqbal ST, Horvitz E. Disruption and Recovery of Computing Tasks: Field Study, Analysis, and Directions. In 2007. p.677-86.
3. *2を参照。
4. Mark G, Gudith D, Klocke U. The cost of interrupted work: more speed and stress. In: Proc SIGCHI Conf Hum Factors Comput Syst [Internet]. New York, NY, USA: Association for Computing Machinery; 2008 [cited 2025 Nov 27]. p. 107-10. Available from: https://doi.org/10.1145/1357054.1357072