BYDのバッテリー、航続距離は520km

F:インド生産とはいえ、すべてがインドで完結しているわけではありませんよね。バッテリーはBYD製でしたか。

大:はい。正確には「Fin Dreams Battery」という、BYDのバッテリー事業を担う子会社で製造したバッテリーです。中国で造ったバッテリーをインドへ持ってきて、そこで車両に組み付けています。

 バッテリーの種類としてはLFP、リン酸鉄リチウム(編注:一般的なEVに多く使われるNMC系より発火しにくく、安全性が高いのが特徴)です。LFPを選んだ理由は、安全・安心というところが大きいです。最近は採用するメーカーも増えてきています。

 気になる航続距離については、Z 2WDで520km、Z 4WDでも472kmという数字です。もちろん実際の走行では変わってくると思いますが、これくらいあれば普通に使っていただけると思います。

リン酸鉄リチウムイオンバッテリーのイメージリン酸鉄リチウムイオンバッテリーのイメージ(広報写真)

 中国で造ったバッテリーをインドへ運び、そこで車両に組んで日本や欧州へ出していく……いやはや、大変な時代になりました。「日本で設計して、日本で造って、海外へ輸出する」という流れも今や昔。

 それにしても520km。EVアレルギーの人間にとって、航続距離は単なるスペックではなく、「精神安定剤」とも呼べるくらい重要なものです。残り距離が減ってくると脂汗がにじんできます。

 充電ステーションがあっても、出力が弱い、先客がいる、故障している、そしてEVでないクルマが停まっている(週末の大黒PAなんてヒドいものでした。取り締まってほしいくらい)。私も過去のEV試乗で「これはもう置いて帰るしかないか」と思ったことが何度かありました。長い航続距離は、ドライバーの心の安寧に直結します。

暑いインドと寒い欧州、熱マネジメントの妙

F:もうひとつ気になるのが熱対策です。バッテリーは充電する時も放電する時も熱を持つ。寒いと性能が落ちる。インドは暑い。欧州は寒い。日本も夏は蒸し暑く、冬はそれなりに寒い。世界で売るクルマとして、仕様はどのように変えているのでしょう。

大:クルマの仕様は地域によって変えています。暑い寒いで言うと、インド仕様ではシートベンチレーションを付けています。一方で、日本や欧州ではシートヒーターやステアリングヒーターを設定しています。日本仕様にはシートベンチレーションは付けていません。

 EVは冬が苦手ですので、エアコンのヒーターで車内全体を暖めるより、直接身体に触れるところを温める方が効率が良いからです。エアコンには効率の良いヒートポンプシステムを採用しています。バッテリーの熱マネジメントの基本的なところは全て同じです。仕向地別の違いはありません。ただ、足まわりのセッティングなどは地域によって変えています。欧州向けは少し硬めです。

e VITARAのシートe VITARAのシート(広報写真)

F:インドは尻を冷やし、日本と欧州は尻と手を温める。実に分かりやすい。

大:ガソリン車ならエンジンが発する熱を暖房に回せます。ところがEVだとそうはいきません。走行も暖房も電気でまかなわなければなりません。暖かさは航続距離を食ってしまうのです。実はこれ、非常に切実な問題です。車内全体を暖めるのではなく、手とお尻を直接温める。言わば手とお尻で航続距離を守る訳です。EVは何もバッテリー容量だけが勝負ではありません。どこにどのように電気を使うのか。その積み重ねが商品力になるということです。