「春になるとクマは里に出て悪さをするから、足腰の弱っている冬眠明けに駆除しておく」という予察駆除制度のもと、日本海側では、残雪期にクマを捕獲するマタギ猟が行なわれていた。古い話だが、文化庁に勤務していた花井正光氏が秋田県で得られた121個体のクマの歯から年齢を調べたところ、1980年のものでは平均約7.2歳、1981年のものは約5.4歳と若いオスに偏った。

 残雪のブナ帯で駆除を行なうため、早く越冬を終える若いオスグマが捕獲されやすいというわけだ。大オスグマや母子グマは、若いオスグマよりもずっと遅く穴を出るのである。

 この予察駆除が、2025年のクマの大量出没を期に再度認識され、北海道や東北の多雪地帯で再開されようとしている。だが、クマの生息域に深く踏み込んでしまうこと、捕獲個体が若い層に偏ること、ライフルや散弾銃を遠射するため半矢(手負い)グマが出て農林・人身被害を起こすことなどから、この制度に反対してきた層は判断に苦慮している。

 一方で、過去の事情をリアルタイムで知らない研究者たちは最重要実施項目に挙げているとおり、研究者の間でも議論が分かれている。

クマ同士が食い合って
死体が消滅している?

 クマの自然死体が見つからない理由として、クマ同士が食い合って消滅しているということはあるだろうか。たしかに近年、GPSを用いた追跡調査中のオスグマが他のクマを捕食していた例は報告されている。

 若いクマはドングリ類が不作の年は里に出やすく、各県での有害駆除個体は若い層に偏りがちだ。野生は自由でありながら弱肉強食の日々は厳しく、手負い、病気になった瞬間に坂を転がるように死へ向かう運命だ。そして同属のクマや肉食獣に食い尽くされるのだろうか。それでも最後には大きな骨は残るはずなのに、私はそれも見たことがない。

 死体が見つからない理由としてもうひとつ、「越冬中に力尽きて死ぬ」と研究者の間で根強く言われている。なにしろ高標高で越冬したクマは1分間に3回ほどまで呼吸数が落ちているので、心拍数の減少や約5カ月間もの越冬期間など体への負担はあるだろう。