私もこの説に傾いたことがあった。けれど、クマがいない何千もの越冬穴を夏期にのぞき込んだが、クマの骨を見たことがない。越冬中に死ぬ、ということもないようだ。

頭が木の股に挟まって
死んでしまうクマも

 ではクマが自然死する状況とはどのようなものだろう。

木の股に頭を挟んで抜けられない子グマ木の股に頭を挟んで抜けられない子グマ(撮影:藤田昌弘) 同書より転載

 野生動物の周りは死の罠であふれている。クマは自分の不注意でそこにハマってしまう。

 病弱だったり手負いになったクマが木に登って、途中のY字の枝の股に挟まって動けなくなって発見されることがあった。

 頭が枝の股に挟まって歯で木を咬むことができず、爪で掻いてバラすには力が入らず、死ぬことがありそうだ。

 私が所長を務める日本ツキノワグマ研究所にいたF氏がテレメトリー追跡調査(野生動物の身体に発信機を装着し、電波情報から動物の移動を追跡する技術)中に、子グマが椿の幹の股に頭を挟んで抜けられなくなっているのを発見した。子グマはFの姿を見て、ますます強く頭を抜こうとして爪を樹幹に叩き込んで引くので、首が股の鋭角部分に食い込んでいく。親グマが近くでうなっているので放ってもおけず、子グマに麻酔をして木の股から引き抜き、開放してやった。

 1996年10月には、広島県中央部の町でカキの木のY字型の股に疾病クマが引っ掛っているのが発見された。皮が融けたように緩み、体中に炎症、ただれ、瘤だらけだ。見かけた人たちは皆、きもち悪がっていた。

山野では弱ったクマが
不慮の事故で死んでいる

 こんなこともあった。1997年10月、私が発信機をつけて追跡していたオスグマの電波が強力に入った。電波情報を確かめてみると位置の移動はなく、死亡しているか首輪だけが落ちているかという状況だった。

 後日、Fがヤマザクラの樹上、10メートルの枯れ枝に首輪だけが引っかかっているのを発見した。樹下に骨片などはなく、首輪が枝に引っかかって外れたようだ。