こうして、潮田さんは、少しずつ「メダリストではないけれど、メダリストをめざして本当によく頑張ったと、自分で認められる人生でよかった」と素直な気持ちで思えるようになっていったといいます。

 そして、今は、次のようにおっしゃいます。

「自分のアスリートとしての日々を振り返って、プロセスがすごく大事なんだと気づくことができました。結果を出すために本当によくがんばったと、自分で認められることが大事だと思うんです。そのためにも、日々時間を大切にして、目の前のことに全力を尽くして、完全燃焼していきたい。そして、死ぬときに、自分は頑張ったと思えるようになりたいです」

「結果よりもプロセスが大事」の本当の意味

 非常に興味深いお話ではないでしょうか?

 潮田さんは現役時代、「メダル獲得」という目的のために、すべてを犠牲にして努力をされましたが、残念ながらその目的を達成することはできませんでした。

 しかし、現役を引退されてから、ご自分のアスリートとしての人生を振り返ったときに、「メダル獲得」という目的のために本気で頑張ったというプロセスこそが大事だということに気づいたとおっしゃるのです。

 もちろん、「メダル獲得」という目的に価値がないということではありません。それに価値があるからこそ、一生懸命に努力をするわけですし、その結果、「メダル獲得」を達成できれば、それこそ最高のアスリート人生でしょう。

 しかし、その目的を達成することができなかったとしても、「本気で努力をした」と自分で自分を認めることができれば、そのアスリート人生に心の底からの満足感を得られるというのです。これは、僕たちの人生を考えるうえでも、非常に示唆に富んだお話だと思うのです。

人生には「勝ち負け」を超えたものが存在する

 これは、潮田さんに限りません。

 多くのトップアスリートが同じ趣旨のことをおっしゃいます。

 たとえば、伊達公子さんは、次のように話してくださいました。

「私は現役時代、『負けたくない』という気持ちを強くもち続けていました。だけど、年齢を重ねるなかで、『勝ち負け』を超えたテニスの面白さ、スポーツの面白さに気づくようになりました。実際、私が負けた試合であっても、やるべきことをやりきったのであれば、その結果を素直に受け入れられるし、何かをやり遂げた後の満足感を得ることができます。そんな経験を重ねることで、人生には『勝ち負け』を超えたものが存在すると心から思えるようになりましたね」

 あるいは、40歳まで現役を続けた柔道家の野村忠宏さんはこうおっしゃいます。

「若いころの僕は、オリンピックで戦えないのであれば、柔道を続ける意味はないと考えていました。だけど、度重なる怪我に肉体の衰えという現実を突きつけられるなかで、もはやオリンピックには出られないことを受け入れたうえで、戦い続けることを選択しました。
 長年戦ってきた真剣勝負の世界は、勝つこと、すなわち、結果がすべてです。でも、その結果以上に、そこへ向かうプロセスに奥深い意義があることを知りました。本気で追い求めてきたものは、ずっと変わらなかった。自分をギリギリまで高めていくという作業。そして、なによりチャレンジを続けるという行為は、小中学校時代に大会に出ては敗北を繰り返していたころから何一つ変わらなかったんです」

「アスリート思考」の神髄とは?

 僕は、これらの言葉に深い説得力を感じます。

 現役時代に、「勝つ」という目的のために命を削るような努力をされてきたトップアスリートが、口を揃えて、本当に大切なのは「結果」ではなく、「結果」を追い求める「プロセス」だとおっしゃる。そこには、嘘偽りのない真実がこもっていると思うのです。

 つまり、「勝つ」という目的をとことん突き詰めたからこそ、トップアスリートは、「自分をギリギリまで高めて、最高のパフォーマンスをする」という「勝ち負け」を超えた「より深い目的」を自覚したということではないでしょうか。そのとき、もしかすると、「勝つ」ということは目標となり、「自分をギリギリまで高めて、最高のパフォーマンスをする」ことが目的となったのかもしれません。

 そして、このメッセージに、僕は強く励まされます。

 いま僕は、TBSという「安定した環境」や、プルデンシャル生命のトップセールとしての「高い報酬」を手放し、アスリーボという会社を起業して「裸一貫」で新しいチャレンジをしています。

 若いアスリートが資金面での不安を感じることなく、競技に集中できる環境を作り出したり、引退したアスリートに、働きながら社会やビジネスのことを学ぶことができる機会や場所を提供することによって、スポーツを心置きなく追求できる人を増やして、日本により一層スポーツ文化を根付かせるような事業がしたいのです。

「アスリート思考」の真髄とは?

 これは決して簡単なことではありません。

 アスリートやスポーツにお金を支払うという文化の希薄な日本という国において、アスリートに「新たな価値」を付け加えることによって、彼らに収益を還元することができる「社会的な仕組み」「新たな産業」を作り出すことには、分厚い「壁」が存在します。

 その「壁」を乗り越えるべく、日々、できる限りの努力を重ねていますが、この努力が報われるのかどうかは、未来になるまで誰にもわかりません。時に、不安で胸がいっぱいになることもあるし、心が折れそうになることもあります。

 だけど、そんなときには、野村さん、伊達さん、潮田さんたち、トップアスリートの言葉を思い出します。

 大切なのは、「結果」を出ために本気で頑張ること、そして、自分をギリギリまで高めていくこと。やるべきことをやりきったのであれば、どんな結果であれ受け入れられるし、満足感を得ることができる。だから、それを信じて、ひたすらチャレンジを続ければいい……。

 こうした言葉を思い浮かべながら、僕は自分にこう言い聞かせるのです。

「お前がやろうとしていることは、必ず、アスリートや社会にとってプラスになるんやろ? その信念に嘘偽りがないんやったら、心が折れそうになっても、目の前のことを愚直にコツコツと積み重ねていけばええんちゃうか? その経験は、絶対にお前の人生にとって大切な資産になっていく。そして、必ず道は拓けるんや

 僕にとって、このマインドセットこそが「アスリート思考」の神髄なのです。

(この記事は、『超⭐︎アスリート思考』の一部を抜粋・編集したものです)

金沢景敏(かなざわ・あきとし)
AthReebo株式会社代表取締役、元プルデンシャル生命保険株式会社トップ営業マン
1979年大阪府出身。京都大学でアメリカンフットボール部で活躍し、卒業後はTBSに入社。世界陸上やオリンピック中継、格闘技中継などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。しかし、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じ、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命に転職した。
プルデンシャル生命保険に転職後、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRTの6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、AthReebo(アスリーボ)株式会社を起業。レジェンドアスリートと共に未来のアスリートを応援する社会貢献プロジェクト AthTAG(アスタッグ)を稼働。世界を目指すアスリートに活動応援費を届けるAthTAG GENKIDAMA AWARDも主催。2024年度は活動応援費総額1000万円を世界に挑むアスリートに届けている。著書に、『超★営業思考』『影響力の魔法』(ともにダイヤモンド社)がある。