「“言語化”疲れで、“言語化”という言葉にモヤモヤする」
「即答するよりじっくり考えるほうが大事なのでは?」
「別に“口下手”のままでもいいじゃないか!」…
など、まったく新しいコミュ力を説いた書籍『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』が発売された。著者でイラストレーターのヤギワタル氏は、これまで200冊以上の書籍でイラストや装画を担当してきて、今回が初の単著となる。本書では、昨今の「言語化ブーム」に対して警鐘を鳴らし、「言語化“以外”に目を向けること」をイラストレーターならではの視点で面白く解説している。本記事では、その中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

意外すぎる「AI」の弱点
ここ数年で、AIは驚くほど賢くなりました。
質問をすれば答えてくれる。
文章を書いてくれる。
要約も翻訳もしてくれる。
その姿を見ると、「もう人間と同じように理解しているのでは?」と思ってしまいます。
しかし、『言語化だけじゃ伝わんない』という本では、AIには本質的な弱点があると語られています。
それは、「言葉は知っていても、中身を知らない」ということです。
AIは「ラベル」から学んでいる
本書では、まずこんな説明がされています。
AIも同じです。
AIこそまさに、箱の中身を見ずにラベルを見るタイプの学習をしているからです。
特に、20世紀後半につくられていたAIはそうです。
たとえば、「リンゴ」なら、開発者たちが「リンゴとはこれこれこういうものだ」と文字で入力してAIに学習させていたようです。
だから、人間が「リンゴとはどのようなものですか?」と聞くと、開発者が入力した説明のとおりの答えが返ってくる。「リンゴとは果物です」「バラ科の落葉樹です」と。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
これは、本書で繰り返し語られている「ラベルと中身」の話につながります。
AIは、「リンゴ」という言葉について大量の説明を学習している。
でも、そのリンゴを実際に食べたことはありません。
つまり、「言葉」は知っている。
しかし、「体験」は持っていないのです。
AIはリンゴを食べたことがない
本書では、さらにこう続きます。
でも、リンゴを食べたことも見たこともありません。
その状態のことを「記号接地していない」と指摘した人がいました。
「記号」とは言葉のことです。箱のたとえで言うラベルのこと。
「接地」というのは、現実との接点のことです。
「記号接地していない」は「ラベルと中身の関係がわかってない」という意味です。
ラベルと中身の関係がわかっている人は、もしそこにみかんがあれば、「これがみかんです」と指さすことができます。
「みかんとは何か」を言葉で説明できなくても、「みかんはこれだ」と指させる状態。
これが記号接地している状態。ラベルと中身の関係を知っている状態です。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
ここにAIの本質的な弱点があります。
AIは、「リンゴは果物です」と説明できる。
でも、リンゴをかじった瞬間の酸味や甘みは知らない。
シャキッとした食感も知らない。
つまり、「リンゴ」というラベルの説明はできても、その中身との接点を持っていないのです。
実は、人間も同じ失敗をしている
本書では、最後にこう語られています。
中身を一度も確認していないからです。
リンゴとは何か。シャキシャキとは何か。おいしいとは何か。
「ラベルと中身の関係を知っている」とは、これらすべてに「コレです」と指すことができるということです。
でも、パッとイメージが浮かばない言葉の場合はどうでしょうか?
イメージが浮かばない言葉たちは、「コレです」で指させるものが見当たりません。
だから、AIでない私たち人間でも、記号接地問題が発生してしまうのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
ここが、この話の面白いところです。
実は、この問題はAIだけの話ではありません。
人間もまた、「リーダーシップ」「戦略」「自由」「成長」「幸せ」といった言葉を使いながら、その中身を確認していないことがあります。
つまり、人間もまた「言葉だけでわかった気になる」という意味では、AIと同じ失敗をしているのです。
AI時代だからこそ、「経験」の価値が高まる
『言語化だけじゃ伝わんない』は、AI時代における人間の価値を考えさせてくれます。
AIは言葉を扱うのが得意です。
大量の文章を読み、適切な説明を返すこともできます。
しかし、それは必ずしも「理解している」ことを意味しません。
なぜなら、理解とは本来、「ラベルと中身が結びついている状態」だからです。
そして、それを生み出すのは経験です。
失敗した経験。悔しかった経験。誰かを好きになった経験。責任を負った経験。
そうした現実との接点があるからこそ、人は言葉の中身を理解できる。
AIの弱点とは、実は「経験できないこと」なのかもしれません。
そして同時に、人間の強みもまた、そこにあるのです。
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。








