「何かあったら言って」
この一言が持つ危うさ

 そのために必要なのが、共感する力です。ただし、ここでいう共感とは、部下に必要以上に寄り添い、何でも甘やかすことではありません。相手の立場を想像し、「今、この人は何に困っているのか」「なぜ言い出しにくいのか」を考える力です。

 ミシガン大学のサラ・コンラスらは、1979年から2009年までのアメリカの大学生を対象とした多数の研究を分析し、共感的関心や他者視点に立つ力が低下傾向にあることを報告しています。これはアメリカの大学生を対象にした研究であり、そのまま日本の職場に当てはめることはできません。ただ、相手の立場を想像する力が、職場でますます重要になっていることを考えるうえでは示唆的です。

 部下を持つ立場になったら、「何かあったら言って」と言うだけでは足りません。その言葉は便利ですが、部下にとっては答えにくいことも多いのです。

 一流の上司は、部下に本音を言わせる前に、自分から観察します。そして、具体的に聞きます。

「何か困っている?」ではなく、
「この案件、どこで止まっている?」
「今日の様子を見ると少し負担が大きそうだけど、どの仕事を調整しようか?」
「昨日の打ち合わせ以降、表情が硬いように見えるけど、何か引っかかっている?」

 こうした聞き方なら、部下は答えやすくなります。上司が自分の状況を見てくれていると感じられるからです。

 優れた上司とは、部下に気を使わせる人ではありません。部下の小さな変化に気づき、必要なときに具体的な助け舟を出せる人です。

「何か困っていることはありますか?」と聞くこと自体が悪いわけではありません。ただ、それだけで十分だと思っているなら、まだ二流です。

 一流の上司は、部下が「困っています」と言う前に、その兆候に気づきます。そして、部下が本音を話しやすいように、具体的な言葉で扉を開くのです。

【参考文献】
Elfenbein, H. A., & Ambady, N. (2002). Predicting workplace outcomes from the ability to eavesdrop on feelings. Journal of Applied Psychology, 87, 963-971.
Konrath, S. H., O’Brien, E. H., & Hsing, C. (2011). Changes in dispositional empathy in American college students over time: A meta-analysis. Personality and Social Psychology Review, 15, 180-198.
【著者の人気記事を読む】頭のいい人は絶対に使わない「残念な日本語」、評価を下げる「5つのNGフレーズ」