柯 1つ目は、市役所や区役所の建物の巨大化です。例えば南京市のある区役所は米国の議会の建物と同じデザイン、同じサイズです。無駄遣いが生じました。2つ目はインフラ整備。高架道路や橋、地下鉄を作りました。作る時はいいのですが、後から定期的な点検やメンテナンス、補修のコストがものすごくかかってきます。
3つ目は、市政府は定期的に年金基金にお金を入れないといけないんです。日本は国が一元管理していますが、中国では各々の市役所が管轄しています。特に内陸で高齢化が進んでいる地域は、定期的にお金を入れないと年金が足りなくなる。
こうして土地財源を頼りに年金を支えてきましたが、不動産バブルが崩壊したことで年金が足りなくなってカットされる不安が渦巻く。日本のバブル崩壊とは比にならないほど、中国の場合は社会不安を引き起こしています。
不動産バブルが膨らんだ「中国特有の事情」とは?
“女性の売り手市場”はこうして生まれた
――実際、ピーク時には不動産バブルはどれくらい膨らんだのでしょうか?
柯 日本のバブルの時、首都圏の不動産価格は会社員の年収の18倍まで膨らみました。経済学的には6倍以内が正常です。一方中国は、恒大集団がデフォルトを起こした2021年くらいに、北京や上海、広州、深圳の不動産価格は会社員の年収の50倍を超えたといわれています。これは「300歳」まで働かないと返せない計算で、明らかにバブルです。
ここまで膨らんだ背景には中国独特の事情もあります。中国では女性が「マイホームを買ってくれないなら結婚しない」と強気になります。男性としては年収の50倍もの値段の家を買えるわけがないですが、女性は譲らない。なぜ女性がここまで強気になるかというと、1980年頃から始まった「一人っ子政策」で男女の数のバランスが崩れたからです。
農家にとって子供は将来の労働力ですが、娘が生まれて将来嫁いでしまうと労働力がいなくなる。だからお腹の子が女の子だと分かると、人工流産を選ぶ人が一定割合いました。また都市部でも、娘だと父親の名字がいずれ消えてしまうけれど、息子なら引き継がれるため、男の子が欲しいという人がいました。
こうして一人っ子政策が約40年間続いた結果、今の40歳前後以下の年齢層では、男性が女性より3200万人ほど多くなりました。女性が売り手市場なので、強気に出るわけです。
――自らが住むために不動産を買う限りは、バブルにはなりづらいのではないですか?
柯 たしかに、マイホームとして買う場合は実需なのでバブルになりにくいです。しかし、実際には住むためではなく、投資用に買った人が多かった。中国人も日本人もお金を貯めるのが好きですが、日本人はリターンを求めず金利ゼロでも預金する傾向が強いです。一方、中国人は欲張りなので運用する人が多い。
ただ、株式に投資する中国人は多くありません。インサイダー取引が横行しているため、国内の株へ投資することを敬遠しているのです。そうした人々が、コロナ禍前に何を買ったかというと、不動産です。不動産を買ってコロナ流行直後に手放して大儲けした人が今、日本に来ています。個人がお金を貯めて投資家になり、結果的にバブルをもたらした。その上、地方政府とデベロッパーが結託して地上げをしたので、不動産価格が大きく上昇したのです。
「上に政策あり、下に対策あり」
“不動産の所有権”は中国人の大きな喜び
――中国人が日本で不動産を買おうと思っても、資金の持ち出し制限があって大変だと話を聞いたことがあります。
柯 中国には1年間で外貨は1人5万米ドルまで、外国に持ち出せるというルールがあります。ただ、「上に政策あり、下に対策あり」で、親戚の枠を使えば、実質いくらでも持ち出せます。夫婦で10万米ドル、子供や親戚を合わせればもっと。あとは地下銀行もありますし、ビットコインを使って合法的に海外に飛ばせます。中国でビットコインは禁止されていますが、そんな制限は実際効くわけがない。香港や台湾にいくらでも網の穴があります。
問題はなぜ日本に来て不動産を買うのかです。一つは安いから。円安が定着したので買いやすい。もう一つは、中国で家を買ってもあくまで定期借地権なので長くて70年しか使えないですし、中古ならもっと短くなってしまいます。
一方、日本で買う場合は所有権を持てます。私自身、日本で家を買った時には感動しました。きちんと納税さえすれば、自分の家を没収されることはまずない。中国人はみんな、その喜びのために買うわけです。「瀬戸内海の小さな島を中国人が買った」といったニュースも、安全保障の問題以前に、買った本人が「これが俺の島だ」という喜びのほうが大きいのです。
自衛隊基地や原子力発電所の近くの土地を中国人に買われると、日本人は睨みますが、日本人だってスパイ行為をしない保証はないですよね。お金をもらったらやる人もいると思うので、もし警戒するなら、周りに住む日本人に対しても定期的に巡回する必要がある。感情的に対立を煽っても建設的ではありません。私はあくまで、中国人の感覚をお話ししています。
――今、日本人が中国関連で何かに投資するとしたら、どう考えるのがいいですか?
柯 まず今、中国経済がダメになっている背景には「三重苦」があります。1つ目はコロナ禍の後遺症。日本や欧米はロックダウンを行ったところは少ないですが、中国は習近平政権が大規模な都市封鎖を実施しました。その結果、飲食店などのサービス業を中心に、数多くの企業が倒産に追い込まれた。2022年12月の統計では、3年間で約400万社の中小零細企業が潰れました。若者の就職先が見つからず雇用が悪化し、多くの人が消費を控えています。
三重苦の2つ目が不動産不況の長期化です。先ほどお話しした通り、企業が倒産しても後処理にものすごく時間がかかる。3つ目がトランプ関税です。関税そのものというより、関税戦争でサプライチェーンが分散され、中国国内から外資の工場などが少なからず撤退したことです。今残っているのは「In China for China」すなわち中国で作って中国国内で売る類のビジネスです。海外からの投資はゼロにはなりませんが、ピーク時に比べて少なくなっています。
中国の独特なビジネスサイクルとは?
一番のトラブルメーカーは政府
――となると、有望な投資先はあまりないですか? 人型ロボットやEVなどが進んでいるイメージはあります。
柯 中国のイノベーションのポテンシャルは高いですが、その活力を政府が殺しているのが残念です。
中国には独特のビジネスサイクルがあります。若者たちが海外の新しい技術やビジネスモデルを勉強し、コピーする。アリババはeBay(米国のEC企業)に、BYDはテスラに学びました。中国は人口が多いので、デジタルビジネスは成功しやすく、実際に成功しました。成功した企業が出てくると、政府が補助金や減税で支援するようになります。すると、本来は関係のない業種の企業が、その分野に参入してきます。
例えば恒大集団も、補助金などが欲しいという側面があってEV事業に参入しています。2018~2019年頃に、中国のEVメーカーは400社を超えました。すると今度は、トップメーカーのBYDが値下げ競争を引き起こし、弱小メーカーを追い出そうとします。昨年、BYDは大幅な値下げを発表しましたが、その前に買ってしまったお客さんは怒るし、これから買おうと思っていた人は「もっと安くなるだろう」と待つ。実際、BYDの新車販売台数は大幅に減り、業績が悪化しています。
最後に大規模倒産が起きます。ブームが終わると、一気に大量の企業が潰れてしまうのです。このように、政府が民間ビジネスに関わると必ず過剰生産になり、最終的には価格競争になって誰も利益をあげられなくなってしまう。今、AI関連企業も140社ありますが、そんなにいらないのです。限られた資源が分散されてしまいます。このビジネスサイクルの中で、一番のトラブルメーカーは政府だと思います。
中国や北朝鮮では、トップダウン型のイノベーションは成功します。ロケットやミサイルの開発などがこれに当たり、上手くいく。しかし、民衆のボトムアップのイノベーションはうまくいきません。例えばAIの分野でも、中国の生成AIには質問できないタブーが多すぎます。しつこく質問を続けていると、最終的には警察が来ます。独裁国家では、AIはうまく発展しないのです。
本記事は2026年6月9日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。








