暮らしに密着した家電から、社会を支えるインフラまで、幅広い領域をカバーする総合電機メーカーとして1世紀にわたってものづくりを進化させてきた三菱電機。同社では「デザイン」を、技術と並ぶ社会課題の解決手段としてR&D部門に位置付けている。そして、全事業領域のデザインを手掛ける統合デザイン研究所では、デザイナーが研究者としての視点も併せ持ち、未来洞察活動に注力しているという。所長の松原公実氏に、活動の特色と今後の方向性を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、坂田征彦、構成/フリーライター 小林直美)
R&Dの中に位置付けられたデザイン機能
――企業内デザイン組織「統合デザイン研究所」の役割や特色を教えてください。
「研究所」という名前の通り、全社のR&Dを担う開発本部に位置付けられているのが大きな特色です。三菱電機の全事業領域の価値創造につながる研究組織として、フィジカル寄りの技術を研究する「先端技術総合研究所」、サイバー寄りの技術を研究する「情報技術総合研究所」と並置されているのです。この中で、技術起点ではなく「人中心」の発想で、使う人、暮らす人、働く人の感性に響く価値を生み出すのが当研究所のミッションです。
扱う製品やサービスの領域は非常に広く、エアコンや冷蔵庫などの家電から、ビルのエレベーターやエスカレーター、電車内の映像情報システム、工場で活躍する産業ロボット、火力発電所で使われる巨大タービン発電機のデザインまで手掛けています。ソリューション系にも力を入れていて、昨年(2022年3月)は、駅を起点にしたガイドブックアプリ「ekinote(エキノート)」の実証実験がスタートしました。これは当研究所が独自で企画し、社内の他部門と連携して開発したものです。
――デザイン組織が新規事業の開発にも携わるのですね。
当研究所には4つの主要部門があり、新規事業のコンセプト創出や提案は、主に「ソリューションデザイン部」が担っています。一方、「産業システムデザイン部」「ライフクリエーションデザイン部」の2部門は、主に既存事業のデザインを担当しています。さらに「フォーサイトドライブ」というチームが、未来の研究開発テーマを探索する「未来洞察活動」をリードしています。
それぞれ活動の領域は違うのですが、事業部から依頼される「委託研究」と並行して、研究所の独自予算で行う「自主研究」に取り組んでいる点は共通しています。また、あらゆる活動を通じて、ユーザー観察から得られた気づきを基にコンセプトをまとめ、クイックに仮説検証サイクルを回していく――という「デザイン思考」を活用しています。