混じり気のない動機で、美しさと向き合う
では、松山の美意識はどのように形成されたのか。
「子どもの頃は、絵を描くより文章を書く方が好きでした。理系に進んだのは文系より雰囲気が自分に合っていたから。明確な目標があったわけではありません」
松山が学んだのは、法政大学デザイン工学部システムデザイン学科。工学に軸足を置きつつ、クリエイティブとマネジメントを横断する、いわば「橋渡し的な人材」の育成が主眼に据えられている。こうした環境で「デザインは色や形ではない」という潮流を強く感じつつ、松山はむしろモノの美しさが持つ力にひかれ、学外のコンペやアワードへ積極的に挑戦するようになった。
「コンセプトやロジックを超える、説明不要の美しさを表現したい。そんな思いを自分なりに突き詰めました。無意識に自分の軸になるものを探そうとしていたのかもしれません」
大学院時代に「富山デザインコンペティション」でグランプリを受賞。貝殻のようにも、骨のかけらのようにも見える、つややかなアルミニウム片──。静ひつなたたずまいだがオブジェではない。ツボをさまざまに刺激できるマッサージツールだ。
当時、世の中にあったマッサージツールの多くはデザインが奇抜で、使わないときは見えないように隠しておくのが当たり前だった。美しいものなら、身近に置けて、すぐ使える。そんな発想だったが、「美しいマッサージツール」というコンセプトそのものに目新しさはない。核心にあるのは、コンセプトを「いいもの」として結晶化させた造形力と美意識だ。
〈collinette(コリネット)〉と名付けられたこのプロダクトは、松山が三菱電機に就職した12年に富山県の企業から商品化され、10年以上を経た今も、ライフスタイルブランドNAGAE+(ナガエプリュス)の主力商品として多くのショップで販売されている。
〈collinette〉Photo by YUMIKO ASAKURA
「デザイナーとしての在り方を深く考える間もなく、自分名義のプロダクトが世に出て、会社の仕事と個人の活動を両立する生活が自然に始まりました」
素直に見れば、家電が「本業」、CachalotやCollinetteは「副業」だろう。しかし、本人の中では、両者が自然に並置されているという。
「幸運だったのは、『良いと信じたものをつくりたい』という混じり気のない動機から個人の活動が始まったことです。インハウスデザイナーの中には、社内でやりたいことができないから、個人の活動で発散する人もいます。でも、抑圧をモチベーションにした瞬間、表現にその文脈が入り込んで濁ってしまう。それは第三者から見たら魅力にはならない。動機が純粋であればあるほど、視野が広がる感覚があります」
インとアウトを循環しながら価値を磨く
パーソナリティと深くひも付く個人名義のデザインと、最新モデルを市場に供給し続ける家電のデザインでは、プロセスもやりがいの質も違う。
「クライアントと共に美しさをとことん追求したアウトプットが、憧れのデザイナーの名作と同じショップに並んだり、大切な人へのギフトに選ばれて、長くそばに置いてもらえたり……。自分のデザインが価値観を共有する人に届く。そこには実感のある喜びがあります」
一方、企業のプロダクトでは、市場動向や競合比較、ユーザー調査といったファクトがより重視され、個人の主観に基づく美意識が前面に出る余地は大きくない。
「新しいコンセプトや表現も、多くの関係者の声や意図が入り込むうちに平たんにならされてしまい、結果的に市場での価値や魅力を失ってしまうことも多いと感じます」
しかし、こうした環境が個人の活動を支えている側面もある。家電から産業機器、社会課題解決まで、幅広い現実に触れることで、問いの射程は確実に広がっていくからだ。就業時間外の個人の活動に干渉しない三菱電機の社風も心地良い、と松山は言う。
25年、松山はプロダクトデザイナーの横関亮太氏、AXISと共に、自らの企画・ディレクションで、〈インダストリアル ロマンティシズム〉と題した展覧会を開催した。大手企業7社に所属するインハウスデザイナーたちが、通常は公開されずに消えていくコンセプトモデルやプロトタイプを持ち寄る試みだ。
デザイナーそれぞれの夢や理想を追求するモチベーションを社会に絶やさないためにも、プロダクトデザイナーのための別のゴールが必要だ──。そう感じたことが展覧会開催のきっかけだった。
「プロダクトデザイナーの秘めたるロマンや情熱は、普段は所属企業やブランドに隠れていて、あまり表に出てきません。しかし、造形に忍ばせた美意識や、個性に由来するエッジ感といった数値化できない要素にこそ、デザイナーをデザイナーたらしめている核が宿っている可能性がある。そこに着目した評価や議論ができる場をつくりたかった」
組織と個人。2軸を往復するプロダクトデザイナーだからこそできた試みといえる。
「組織の中心から離れた場所にいるからこそ、ちょっと外の世界とつないだり、異なる評価軸を示しやすい。それが、若いプロダクトデザイナーをエンパワーできるのではないか。今、そんな手応えを感じているところです」







