その本に描かれているソニーは、戦後日本の希望の星だったソニーでもなければ、世界をウォークマンで驚嘆させた輝かしいソニーでもなかった。この本のソニーは、“金払いの良さだけが取り柄の無能過ぎる御大尽”として書かれていた。ハリウッドはソニーの無能ぶりをせせら笑った。

 ソニーの盛田昭夫以下、幹部らは、自称・大物プロデューサーのピーター・グーバー、ジョン・ピーターズの2人を言い値で雇った。肩書はグーバーが共同会長兼CEO(最高経営責任者)、ピーターズは共同会長だった。たしかに、日本でもヒットした『バットマン』(1989年)は2人がプロデュースした作品であったが、彼らが自らの実績として口にした『フラッシュダンス』(1983年)や『レインマン』(1988年)は、まったくの別人がプロデュースした作品だった。こんなウソさえもソニーは見抜けなかった。

言い値でカネを払い続ける
ソニーをハリウッドは嘲笑した

 当時、日本はバブル経済真っ只中。とはいえ、およそ6700億円もの買い物は決して安くはない。その契約内容を仔細に見ると、ソニーの“金満ぶり”に驚かされる。当時、グーバーとピーターズは、ワーナー・ブラザースと5本の映画をプロデュースする専属契約を結んだばかりだったが、ソニーは彼らをわざわざ横取りしに行ったのだ。

 タイム・ワーナーのCEOでハリウッドの大物、スティーブ・ロスは、突然、割り込んできた“ズブの素人”のソニーに激怒した。「このハリウッドで自分の顔に泥を塗った」と、ソニーに対し10億ドルの賠償金を求める訴訟を起こしたのである。

 結局、ソニーはワーナー側に違約金としておよそ1400億円を支払う羽目になる。“ジャパンマネー”に強い不快感を持っていた米国の世論は、ソニーから1400億円ものカネをふんだくったロスに喝采を送った。カネでハリウッドに乗り込んできたソニーに対する視線は、実に冷ややかだった。

 本来であれば、スティーブ・ロスの言い分はただの横車だ。相手がいかにハリウッドの大物とはいえ、ソニーは法廷で戦うべきであった。けれども、こんな横車に対してさえも、ソニーは鷹揚だった。“金持ち喧嘩せず”を地でいくような対応だった。