――あなたは「両親や教師が子どもの教育に失敗し、うまく社会化できなければどうなるかを示す好例が、ドナルド・トランプである」と書いています。そして、その「トランプがいるおかげで、インドのナレンドラ・モディ首相やブラジルのボルソナーロ大統領といったほかの煽動政治家が、ポピュリズム的政策を推進できるようになった」とも書いています。トランプ大統領は世界にとって災厄なのでしょうか? それとも今の共和党からトランプ大統領のような人物が現れたのは歴史の必然なのでしょうか?
ええ、彼はアメリカだけでなく世界にとっても災厄だと思います。この本を書いたときは、彼がどれほど大きな災厄なのか理解していませんでした。しかしこの半年(2025年1~6月)で起こったことは、誰も予想できなかったほど悲惨なことです。彼が一夜にして援助を撤回しただけで、アフリカで亡くなった人の数は膨大に増えました。
――USAID(米国際開発局)閉鎖のことですね。
ジョセフ・E・スティグリッツ/Joseph E. Stiglitz/経済学者。ノーベル経済学賞受賞者。1943年、アメリカ・インディアナ州生まれ。アマースト大学、マサチューセッツ工科大学を経て、イェール大学、スタンフォード大学、プリンストン大学などの教授を歴任。クリントン政権時代の大統領経済諮問委員会委員長。世界銀行のチーフエコノミストも務めた。著書多数。 Photo by K.O.
そうです。USAID閉鎖は誰も想像できませんでした。彼が移民問題でひどい決定を下すことはわかっていましたが。
ただ、アメリカの強さの基盤である科学を破壊するとは思いもしませんでした。彼はアメリカの大学を破壊しようとしています。彼が大学を嫌っていること、そして私たちが困難に直面することはわかっていましたが、それがどれほどひどい事態になるのかは理解していませんでした。
「関税の引き上げ」が国際法の規範に悪影響を与えることは明白です。関税引き上げが「違法」であることもわかっていました。しかし、国内の法規範のあらゆる側面を彼がこれほどまで踏みにじるとは予想できませんでした。アメリカが債務を返済しないかもしれないと示唆することは何となくわかっていましたが、トランプの私有地で非公式に合意された、いわゆるマール・ア・ラーゴ合意のようなものを提案するとは思いもしませんでした。
つまり、彼はこれまでずっと災厄です。共和党が彼のような悪質な人物に乗っ取られたのは必然ではなかったはずなのに。本当に残念です。エリザベス・チェイニーのような人たちは、私とは多くの点で意見が異なりますが、それでも立ち上がろうとする姿勢を見せてくれました。しかし、ほとんどの共和党員は自分の価値観を主張しませんでした。私は胸が張り裂ける思いでした。
私の著書『世界の99%を貧困にする経済』と『PROGRESSIVE CAPITALISM』には、アメリカが許容している不平等のレベルが、煽動政治家にとって格好の土壌となっていることを書きましたが、想定以上に私たちは不運でした。私たちが受けるべき運命以上の、もっとひどい煽動政治家に出会ったのです。
※近著『スティグリッツ資本主義と自由』山田美明訳(東洋経済新報社)
『あなたの知らない「世界の新常識」』スラヴォイ・ジジェク、ジョセフ・E・スティグリッツ、エリック・カウフマン、ジェイソン・ヒッケル、ジョセフ・ヘンリック、ジャック・アタリ、ミチオ・カク、ジェレミー・リフキン、大野和基(インタビュー・編)(集英社インターナショナル新書)







