『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている『ケーキの切れない非行少年たち』(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第21話『仲間』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。
不登校の女子高生に突然「仲間」が出来たワケ
境界知能の女子高校生、小平恵(仮名)は、学校の勉強についていくことがなかなかできません。
境界知能とは、IQがおよそ70~84の範囲にある状態を指します。知的障害には該当しませんが、学習や生活の面で一定の支援が必要とされることがあります。人口の約14%が該当するとされ、日本ではおよそ1700万人にあたります。学校の35人のクラスで例えると、約5人が境界知能の範囲に入る計算になります。
発達のペースは、一般的な発達の人と比べるとおよそ8割程度とされ、学校では学習の遅れに悩むことが増えていきます。しかし、日常会話や見た目には大きな違いがないため、周囲から気づかれにくいことも特徴の1つです。
恵も担任の先生から通級指導教室の利用をすすめられました。しかし、母親はそれを強く拒否します。勉強ができないのは教え方や本人の努力が足りないからで、「やればできるはずだ」と信じていたのです。
母親は高価な教材を買い与えるなどして恵に期待をかけましたが、恵はその期待に応えることができませんでした。成績は下位のままで、何とか隣町の私立女子高校に進学したものの、同級生との会話にもついていけませんでした。
実際、境界知能の人は仲間同士の微妙な社会的サインを理解することが難しい場合があり、そのため人間関係を築きにくく、いじめの被害を受けやすい可能性があることもこれまでの研究で指摘されています。
高校に進学しても友人関係がうまくいかなかった恵は、次第に学校へ通えなくなり、不登校となります。そして精神科医・六麦克彦の外来を受診するようになりますが、症状はなかなか改善せず、恵は沈んだ表情のままでした。
ところが、ある時期から恵の表情が明るくなり、少しずつ学校へ通い始めるようになります。母親も喜びますが、六麦は恵の急な変化に違和感を覚えます。
実はその背景には、恵にとって「居場所」と感じられる場所が見つかったことがありました。それが、いわゆる“不良グループ”だったのです。グループの1人が「仲間に入れてあげる」と言うのですが、店から「何か盗ってきたら」という条件付きでした。
それがたとえ良くない行為であっても、これまで自信を持てなかった恵にとって、自分を認めてくれる存在は何にも代えがたいものでした。
これは、少年院の少年たちの話でも珍しいことではありません。悪いことをすることで仲間に認めてもらえる。言い換えれば、悪いことをすることでしか認めてもらえないのです。
彼らにとって非行は、単なる反社会的行動ではなく、「自分の居場所を得るための手段」になっていることもあります。善悪の判断だけでは説明できない側面があるのです。
恵もまた、自分の居場所を確保するために、次第に逸脱した行動へと足を踏み入れていくことになります。
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社







