「我慢の節約」はもう不要
インフレ時代の「老後資産防衛」

 改善するよう、今の楽しみを維持しつつも、不要なところをそぎ落とす調整をすべきでしょう。でも、問題はそこだけではありません。預貯金に偏りすぎた資産の持ち方を変えていかないと、かなり節約を意識した老後を余儀なくされてしまうでしょう。

 進さんご夫婦の貯蓄は、預貯金500万円と、受け取った退職金800万円。これらはすべて銀行口座に入れていました。1000万円あるという企業年金、これは確定拠出年金のことでしたが、持っている商品のほとんどが定期預金です。

 進さんが若いころのデフレの時代はそれでよかったかもしれません。ですが今は預金金利は低く、投資を活用しないとお金を増やすことはおろか、お金の「価値」を維持することも難しい時代です。

 インフレで物価が年2%上がれば、お金の実質的な価値は1年で何十万円分も目減りしてしまいます。家計のテーブルで、お互いに「これくらいはいいだろう」と見えない浪費を重ねている間に、老後破綻という現実が、誰にも気づかないまま、静かに迫ってきているのです。

 進さんご夫婦に必要なのは、お互いの楽しみを禁止するような「我慢の節約」ではありません。まずは、これまで別々に緩んでしまっていた財布をもう一度合わせ、「家計をチームとして共有すること」です。

 お互いの趣味や健康維持にかける費用について、「毎月の収入23万円の中で、フラダンスとジムにいくらずつ配分するか」を夫婦でオープンに話し合い、納得のいく予算枠を作る。これだけで、なんとなく流出していた「みえない支出」には明確なブレーキがかかります。

 そして、そのようにして守った大切な老後資金だからこそ、ただ銀行口座に眠らせておく「預金信仰」からも脱却する必要があります。

 まだ受け取っていない企業年金を含めた、2300万円という資産の一部を、新NISAなどを活用して世界経済の成長に分散投資する。そうしてインフレによる目減りを防ぐ「守りの投資」を取り入れることで、老後資金の寿命は飛躍的に伸びていきます。せっかく若い頃から企業年金を積み立ててきたのですから、定期預金のまま放置せず、これからの時代に合わせた「生きたお金」に育て直すべきなのです。

 もちろん、老後資金をすべて投資に回すべきではありません。生活防衛資金や数年以内に使うお金は、預貯金で確保しておく必要があります。そのうえで、当面使う予定のない資金については、新NISAなどを活用し、リスクを分散しながら長期で運用する選択肢も検討できます。

 ここでいう「守りの投資」とは、大きく増やすことを狙う投資ではなく、インフレによる資産価値の目減りを防ぐための投資です。せっかく積み立ててきた大切なお金を定期預金のまま放置せず、これからの時代に合わせた「生きたお金」に育て直すことも、資産防衛のひとつなのです。

 お金は、ただ通帳を守るためにあるのではありません。定年後の新しい日常を、お互いに心地よく、安心して楽しむための道具です。

 いくら現役時代に堅実であっても、環境の変化に合わせて「夫婦の 의 対話」と「資産の置き場所」をアップデートできなければ、誰でも、少しずつ余計な支出が積み重なる“メタボ家計”に陥るリスクを持っています。まずは今週末、これからの豊かな老後を一緒に作るために「マネー会議」を、ご夫婦で始めてみることをおすすめします。