修業で得られるものは
「技術」だけではない
では、それだけで寿司職人になれるのでしょうか。ここで浮かび上がるのが、「修業は本当に必要なのか」という問いです。
修業が必要だと考える人たちの考えをまとめると大方このような感じです。寿司職人に必要なのは、心技体の3つだと。そのうち「技」は教えられる。しかし、「心」は教室では身につかない。魚を前にしたときの緊張感、失敗したときの悔しさ、理不尽に思える経験を積み重ねる中でしか育たない感覚がある。修業とは、単なる技術習得ではなく、職人としての姿勢や覚悟を身体に刻み込む時間だ、という考え方です。
一方で、修業は不要だと考える人たちもいます。技術は言語化できる。合理的に教えればよい。何年も下積みを強いるのは非効率で、現代の働き方にも合わない。寿司をビジネスとして捉えるなら、短期間で戦力を育てる方が現実的だ、という考えです。こちらも、決して的外れではありません。
ただし、ここで見落とされがちな点があります。それは、修業の価値が「技術」だけではないということです。
その大きなものの1つが人間関係、つまり人脈です。修業先の店で築いた信頼関係は、独立した後にも生き続けます。開業したばかりの店に、元いた店のお客が足を運んでくれる。困ったときには、前の店の大将に相談できる。仕入れや人の紹介を受けることもあるでしょう。これは、寿司スクールではなかなか得られない価値です。
寿司店は、技術だけで成り立つ商売ではありません。信用で成り立っています。どこで、誰のもとで、どんな仕事をしてきたのか。その積み重ねが、知らず知らずのうちに店の看板になります。修業とは、その信用を時間をかけて築くプロセスでもあるのです。







