例えば、「エンタメ」への支出意向の高さは、自己成長や新しい刺激を能動的に求めていることの表れではないでしょうか。ここで重要なのは、彼らはなんでも無差別にエンタメに貪欲なわけではなく、「自分のこだわりが満たされる質の高い体験」は積極的に摂取しにいくということです。リタイア後の最初の自由な時間を使って、質の高い体験や趣味のイベント参加など、「人生をエンジョイするなら今」と積極的に投資しています。

 この「山型タイプ」の消費は、令和シニアが「単にモノを所有する」ことよりも、「時間と経験を豊かにする」こと、そして「自分らしいこだわりを追求する」ことに、お金の使い道を見出していることの明確な証拠なのです。

タイプ4:V型タイプ
「おしゃれ迷子」になりがち

 この「V型タイプ」は、先ほどの山型と逆で、50代と70代が高い消費意向を示す中で令和シニア(60代)だけが消費の谷間になるという現象です。この谷を形成するのは、「ファッション」「ビューティー」「化粧品」といった「身だしなみ」に関わるカテゴリです。

 以前はなかった60代向けのファッション誌がロングセラー化するなど、ともするとおしゃれに前向きなはずの60代が、なぜこの出費を一旦抑えてしまうのでしょうか?その背景には、単なる意欲の減退ではない、3つの理由が隠されています。

 第一に、「動機(仕事)」がなくなったことです。50代まで身だしなみへの投資を支えていたのは、職場という場所で他者から常に見られている意識でした。しかし、定年によりこの見られる機会が減ると、「義務としての身だしなみ」へのモチベーションが消えてしまうのです。

『THE FRONTLINE GENERATION令和シニア なぜいまZ世代マーケターは60代に「未来」を見るのか?』書影『THE FRONTLINE GENERATION令和シニア なぜいまZ世代マーケターは60代に「未来」を見るのか?』(株式会社博報堂ストラテジックプラニング局、株式会社Hakuhodo DY ONE、宣伝会議)

 第二に、長年のブランドに対する「信頼の切れ目」です。これまで使っていたブランドが、今の自分の身体的な変化に対応していないと感じ始めます。肌が弱くなったり今までの化粧品が使えなかったりなど、愛用してきたブランドとの関係がプツンと途切れる瞬間を迎えます。

 そして第三に、新しい情報を探しても見つからない「欠落」です。従来のブランドに頼れなくなった彼らが新しい情報を探そうと思い立っても、現在の情報環境では「60代向け」のコンテンツが少なく、何を信じていいかわからない状況に陥ります。

 このように、身だしなみに関する投資に対して60代は従来の消費の「目的」と「情報源」の両方を同時に失うことで、一時的に消費意欲がフリーズした状態になるのだと考えます。

 しかし、この谷は一時的なものです。消費意向が持ち直す70代は、消費の目的を「自分らしい自己表現」へと再定義し始める時期だと推察できます。新しいコミュニティでの活動などが増えることで、再び「人に見られる意識」が高まり、「欠点を隠す」から「個性を引き出す」ための投資へと、消費の質を能動的に変化させていくのです。