企業・ベンダー・コンサルが激変!DX2025 エージェントAIが来る#9Photo:nidone_tyo & Midjourney

新商品開発の前に行われることでおなじみの消費者調査。無数のインタビューを繰り返して作り上げる手間のかかる工程がAIで、しかも1億人などの大量の人数分作成できる技術が登場している。さらに、本人の性格まで正確に模倣したAI本部長が営業部員を指導するサービスまで出てきた。営業とマーケティングはAIでどう変わるのか。特集『DX2025 エージェントAIが来る』(全21回)の#9では、これまでAIが入りにくいと思われてきた現場での活用の実態を見てみよう。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

日本人まるごと1億人を対象にした仮想調査が実用化
100個の案でもAIペルソナが回答、大量の調査が可能に

 新商品開発や事前マーケティングに必須の消費者調査。これまでであれば、ある程度の時間とコストをかけて実際に対象者を絞り込み、グループインタビューなどを繰り返して行うものだった。

 それを、日本人の総人口並みの「1億人」でできたら――。そんなことが実はすでに可能になっている。電通が開発した「People Model(ピープルモデル)」がそれだ。

 これは、日本人口規模の1億人をシミュレーションできるAIモデルだ。電通が年2回実施している15万人対象の大規模生活者調査データを基に、15万人のAIペルソナを作成。これを1億人規模に拡張し、任意の質問に対するアンケート調査結果を予測できる。

 実際の人間に調査するのと同じように、AIペルソナをピックアップして調査をかける仕組みで、仮想定量調査が可能になる。

 モデルの精度を示す相関係数は0.8。これは、100問の質問のうち、80問を学習用、20問を検証用に分割し、AIが学習していない20問で実際の調査結果との一致度を測定したもので、0.8という成績は統計学的に「強い正の相関」を意味し、実用に耐え得る水準となっている。

 AIによる仮想調査のメリットは、調査の「量」と「スピード」の限界を突破できることにある。例えば、複数の新商品案を人間に調査する場合、あらかじめ少数の案に絞り込むことが必要になる。被験者が疲れてしまうし、時間とコストがかかるためだ。だが、AIであればこうしたことは起こらず、たとえ100本でも調査が可能になるのだ。絞り込みの段階で本来であれば捨ててしまった案も含めて、大量に調査を行った中から選ぶことができるというわけだ。

 ピープルモデルはすでに電通社内でのマーケティングやCMなどの企画プロセスに使われているほか、社外の顧客向けにマーケティングAIエージェントサービスの一部として提供されているという。

 営業とマーケティングは、人を対象にしているが故にAIに置き換えることが難しいのではないかと思われてきた分野である。だが、こうしたいわば「最後まで人に残された領域」でさえもAIの力で今までではできなかったことができるようになっている。

 さらに、KDDIではベテランの営業本部長のノウハウや本人の性格や思想までコピーして、部下の指導を代行してくれるAIまで登場しているという。いったいどんなものなのか、次ページから見ていこう。