お話を聞いて、筆者は、一般的な組織開発のアプローチを採用することは止め、BCGマトリクスで同社の事業状況を整理した上で、ワークショップを開催し、パッケージメディアの事業に関わっている人たちに対して、自分たちが担当している事業と、同社の他の事業との関係について整理してもらったのです。

 実は、この企業では、かつての主幹事業であったパッケージ製造業の衰退が徐々に明らかになる一方で、いくつかの新規事業が育ってはきているものの、衰退する主幹事業に取って代われるほどの規模に成長するかどうかは未知数であり、未だに試行錯誤が続いている状況でした。

社員同士が物語を共有した途端に
やりがいのある仕事に変わった

 当該事業の中核社員を集めたワークショップにおいて、筆者は、作成した同社の事業ポートフォリオを見せて、次のように説明しました。

「皆さんの事業は確かに成熟から衰退のステージにあります。しかし一方で、この事業に取って代わるような事業は未だに生まれておらず、試行錯誤が続いています。さて、新規事業の成功は基本的に『数の関数』です。とにかく、打席に立つ数を増やすことでしか成功できません。そして『いつまで打席に立てるか』は『いつまでキャッシュが続くか』にかかっています」

 この説明を聞いて状況を洞察した、当該事業の中間管理職の方が、おもむろにこう言い出したのです。

「これってつまり、自分たちは単に枯れていく事業の延命措置をやっているのではなく、会社全体が新しい場所に移るためのエネルギーを生み出している──最後尾を守る『しんがり』の役割を果たしている、ってことですよね?」

 その瞬間の、周囲にいる人たちの表情の変化が未だに忘れられません。「私たちはしんがりを務めている」というナラティブが立ち上がり、それが共有された途端に、自分たちが関わっている事業の意味合いが大きく転換されたのです。

 このように、戦略フレームは単なる分析の道具ではなく、人々に「自分たちの仕事が企業全体にとってどのような意味を持っているのか」を意味づける「編集の装置」でもあります。

 フレームを通してコンテキストが再解釈され、そこから行動の方向性と意味が導かれる。まさにフレームは、戦略とナラティブをつなぐ橋渡しとして機能するのです。