一部のタクシードライバーが
「近距離のお客」に難色を示すワケ

 先ほども少し述べたが、それは「稼ぎ方」に起因する。

 タクシーの世界には「付け待ち」と呼ばれる営業手法がある。駅のロータリーや病院など、所定のタクシー乗り場で順番に乗客を待つ、おなじみの方法である。

 こうした乗客の中には、タクシードライバーに大きな売り上げをもたらす人たちが含まれている。長距離を移動する、いわゆるロング(長距離)客だ。

 特に繁華街や大学病院で「付け待ち」していると、こうした一発が期待できる。終電を逃した人や、遠方の家に戻る退院患者などのロング客が現れるからだ。その淡い期待を抱きながら、長い時には、1時間以上も待ち続けるドライバーもいる。

 だが、「付け待ち」はギャンブル的な側面が強い。長く待ち続けたからといって、必ずロング客に出会えるとは限らない。一発を狙っているところにワンメーターの客がやってくることも十分にあり得る。

 1時間以上待ってワンメーターの客しか乗らなければ、時給換算で500円程度になる場合もある。タクシードライバーも人の子。意気消沈して顔に出てしまう気持ちも分からなくはない。

 しかしながら、筆者は取材を通じて、稼いでいるドライバーほど「近距離の乗客がイヤ」といった感覚を口にしないことが分かった。

 なぜなら近距離でも、降ろした場所が良ければ次につながると思っているからだ。乗客を降ろした後、そこが乗客を拾いやすいエリアであれば実質的な損失は小さい。

 ロング客という一発を狙って待ち続けるよりも、近距離でもお客を拾い続けたほうが効率よく稼げる場面もある。短い乗車でも会話を一言交わし、気持ちよく降ろす。それでお褒めの言葉をもらったりすると、ドライバーの評判も高まる。

 このような柔軟性や接客態度の差が、売り上げを左右するのは言うまでもない。接客業や歩合制の仕事をしている方なら“どこにでもある話”のように聞こえるかもしれないが、タクシー業界は差の出方が顕著だ。

 同じ会社に所属し、稼働するエリアや時間帯も同じなのに、月間の売り上げが倍近く変わってくることもある。車種も同じ、道路も同じ、客層もほぼ同じ。それでも差がつく。それはなぜか。要因を一言で言うなら、「乗客を降ろした後の算段があるかどうか」だ。